2014 年 57 巻 1 号 p. 29-42
目的 : Minimal Intervention (MI) の概念に基づき, 齲蝕が深部象牙質にまで進行し歯髄に近接する場合, 歯髄に近接する深部齲蝕象牙質を保存し, 露髄を回避する目的で暫間的間接覆髄法 (IPC) が行われる. 本研究では, 新規Knoop硬さ測定システムであるカリオテスターSUK-971 (三栄エムイー) を用いて象牙質試料の硬さを測定し, 覆髄剤が軟化象牙質へ与える影響を検討した.
材料と方法 : ヒト抜去大臼歯から直径10mm, 厚さ2mmの象牙質試料を作製し, 象牙質試料の歯髄腔側からアスピレーターで吸引しながら, エナメル質側を20mmol/l乳酸溶液に浸漬して, エナメル質側の硬さが20KNH程度となる脱灰象牙質試料を作製した. 脱灰象牙質試料に, ハイボンドテンポラリーセメントソフト (松風), ネオダイン-α (ネオ製薬), ダイカル (デンツプライ三金), カルシペックスプレーンII (日本歯科薬品), 60%水酸化カルシウム混和物 (キシダ) を貼付し, ベースセメント (松風) で被覆したものを覆髄試料, 覆髄剤を貼付せずベースセメントのみで被覆したものをコントロールとして作製し, 湿度100%容器中または石灰化溶液中で1カ月間および3カ月間保管後, 脱灰象牙質の硬さを測定した. 試料数は各条件につき3試料とし, 得られた値は一元配置分散分析およびTukeyの検定にて統計解析を行った (α=0.05). また, 硬さ測定後, 覆髄剤貼付部のSEM画像の観察を行った.
結果および考察 : ダイカル, カルシペックスプレーンII, 60%水酸化カルシウム混和物を貼付した脱灰象牙質試料では硬さが向上し, SEM画像でも石灰化物の緻密な沈着が認められた. コントロール, ハイボンドテンポラリーセメントソフト, ネオダイン-αを貼付した脱灰象牙質試料では, 硬さは向上せず, SEM画像でも石灰化物の緻密な沈着は認められなかった. このことから, 水酸化カルシウムを27%以上含有する覆髄剤を脱灰象牙質に応用することで, コラーゲン線維表面に石灰化物の沈着が起こり, 脱灰象牙質が硬化したと考えられる. また, カリオテスターを用いることで, IPC後の象牙質の硬さの継時的変化をチェアーサイドで客観的に評価することが可能になると考えられる.
結論 : 覆髄剤貼付による脱灰象牙質の再石灰化は, 覆髄材に含有される水酸化カルシウムの含有濃度に影響されることが示唆された.