日本歯科保存学雑誌
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原著
エナメルマトリックスデリバティブを応用した後に形成される歯肉と根面との付着の微細構造
河野 智生重松 伸寛野口 三智子白石 真教高橋 貫之田幡 元森田 浩正津守 紀昌梅田 誠
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キーワード: EMD, 付着, 微細構造
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2014 年 57 巻 2 号 p. 121-129

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抄録

 目的 : エナメルマトリックスデリバティブ (EMD) は歯周組織再生療法として用いるだけでなく, 臨床では歯肉退縮の治療である根面被覆にも広く応用されている. しかし, EMDを利用した根面被覆術の術後に, 露出した根面を覆った歯肉がどのような付着で治癒しているのか, 特にその微細構造については現在でもほとんど報告されていない. そこでサルの上顎頰側に実験的な裂開骨欠損を作製し, 根面にEMDを塗布した後の治癒について, 特に根面と歯肉との付着部に注目して, 透過型電子顕微鏡を用いて微細構造学的に検討した.
 材料と方法 : 実験動物としてニホンザルを用い, その上顎左右側小臼歯群を実験部位とした. 手術部位は, 全層弁を形成後, セメント-エナメル境より根尖方向4mmの頰側の歯槽骨, 歯根膜とセメント質を除去した. 次いで, 左側の根面にはEMDであるエムドゲイン®を塗布 (実験群), 右側には何も塗布しなかった (対照群). 実験期間は8週間とした. 実験期間経過後, 術部を採取し, EPON包埋した. 試料は, まず準超薄切片を作製して光学顕微鏡で観察, 続いて超薄切片を作製し透過型電子顕微鏡で観察し撮影した.
 結果および結論 : 観察の結果, 実験群では対照群と比較して, 根面上に活性のある細胞が配列し, 根面との間にコラーゲン原線維を密に形成していた. また, 実験群・対照群ともに根面と新生組織との境界にdgl (dense granular layer) という無線維層がみられ, 対照群ではそのdglに沿って人工的な裂け目がみられたが, 実験群ではみられなかった.
 以上の結果から, EMDは治癒過程で根面上に出現するセメント芽細胞や歯肉線維芽細胞のコラーゲン線維形成を促進し, さらに根面と新生組織との界面の結合を強固にする可能性がうかがわれた. そのため, 根面と歯肉との境界部分の接着が重要である根面被覆術にEMDを併用することが有効であることが示唆された.

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© 2014 特定非営利活動法人日本歯科保存学会
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