日本歯科保存学雑誌
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原著
健全な若年成人における歯周基本治療時のアロマテラピーの効果
―心拍変動解析を用いた自律神経活動評価―
下地 伸司竹生 寛恵大嶌 理紗川浪 雅光菅谷 勉
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2018 年 61 巻 5 号 p. 282-291

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抄録

 目的 : 歯科治療に対して恐怖心や不安感を有している患者は多く, それらを軽減させることは, 安心・安全な歯科治療を行うために重要である. そのための簡便な精神鎮静法の一つとしてアロマテラピーがあるが, 歯科領域ではまだ十分には検討されていない. 本研究の目的は, 健全な若年成人に対して歯周ポケット検査および超音波スケーラーを用いたスケーリングを行った際のアロマテラピーの効果について, 著者らが開発したモニターシステムを用いて自律神経活動の変化によって音楽鎮静法と比較することにより評価することである.

 対象と方法 : 15名 (26.1±1.1歳) の健全な若年成人ボランティアを対象とした. 同一被験者に対して精神鎮静法を行わない非精神鎮静群, アロマテラピーを行うアロマテラピー群, 音楽鎮静法を行う音楽鎮静群, アロマテラピーと音楽鎮静法の両方を行う併用群の4群を設けた. 4群を行う順序は, 中央割付法でランダム化して決定した. 最初に, 質問票 (DAS) を用いて歯科治療に対する恐怖心を評価した. 次に非精神鎮静群では, 処置前座位 (3分間), 処置前仰臥位 (3分間), 歯周ポケット検査 (3分間), スケーリング (5分間) および処置後仰臥位 (3分間) を順に行った際の血圧, 心拍数および自律神経活動について, 本モニターシステムを用いて評価した. その他の3群では, それぞれの精神鎮静法を施行して3分間後に同様の評価を行った. また, 処置前後の不安感についてVASによる評価を行った. 自律神経活動は, 心電図のR-R間隔を高周波成分 (HF) と低周波成分 (LF) に周波数解析することで, 交感神経活動 (LF/HF) を評価した. 統計学的分析は, Friedman testおよびWilcoxon signed-rank testを用いて行った (p<0.05).

 結果 : 血圧, 心拍数およびVASは, 各段階でほとんど変化がなく, 有意な差は認められなかった. LF/HFは, 非精神鎮静群で処置時に処置前よりも有意に低い値を示すことが多かった. また, ほかの3群で処置前座位時および仰臥位時に非精神鎮静群よりも有意に低い値を示した.

 結論 : 健全な若年成人では, アロマテラピーを行った際は, 行わなかった際と比較して歯周ポケット検査および超音波スケーラーを用いたスケーリング前の座位時および仰臥位時において交感神経活動が低下する. その程度は音楽鎮静法と同程度だったが, 併用することでさらに低下することはなかった.

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© 2018 特定非営利活動法人日本歯科保存学会
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