目的:陥入歯は上顎側切歯に好発し,陥入の程度にはデンタルX線画像やパノラマX線画像による二次元的な分類が広く用いられている.近年,歯科用コーンビームCT(CBCT)画像により水平的な広がりを把握し,陥入歯の治療に活用した症例が報告されている.今回,外傷後,約19カ月経過後に歯髄の生活反応が失われ,さらに内部吸収様の透過像が観察された上顎左側側切歯の陥入歯(Oehler 3型)に対して,陥入部に対する処置と歯内療法を実施することで良好な治癒が得られたので,その治療経過と予後について報告する.
症例:患者:11歳,女児.主訴:上顎左側側切歯の加療希望.全身的既往歴:特記事項なし.現病歴:1年7カ月前に学校の教室で遊んでいてつまずき,机にぶつかって前歯が欠けた.上顎左右中切歯に露髄を伴うエナメル質-象牙質の歯冠破折をきたしていたため,直接覆髄を実施した.受傷後,中切歯の経過観察時に上顎左側側切歯が陥入歯であることと歯根近心部の透過像が指摘されていたが,歯髄反応も正常であり臨床症状がないため,経過観察を行っていた.複数回のデンタルX線画像から歯根近心部に透過像が確認され,変色を認めることから精査を勧め,CBCTを撮影したところ歯根近心部および根尖部に透過像が観察された.電気および温熱刺激に反応を示さないことから,上顎左側側切歯の生活反応が失われていることがわかった.
臨床所見:上顎左側側切歯,自発痛(−),打診痛(−),歯肉腫脹(−),動揺(0度),根尖部圧痛(−),プロービング深さ(PD)は全周2mmであった.電気歯髄診(−),冷温刺激痛(−),デンタルX線およびCBCT画像からOehler 3型の陥入歯,内部吸収様の透過像を伴う根管形態を認め,歯根の近心側から根尖部にかけた歯槽骨内の透過像を認めた.
診断:上顎左側側切歯,歯髄壊死,無症候性根尖性歯周炎,陥入歯Oehler 3型.
治療経過:上顎中切歯の外傷後からの経過観察においては,自発痛や打診痛をはじめとした臨床症状は観察されなかったものの,19カ月後に歯髄反応が失われた.CBCT画像検査により内部吸収様の根管内透過像,陥入部により根管形態が複雑化していることを確認し,陥入部の感染源除去を含めた歯内療法を開始した.CBCT画像を参考に,マイクロスコープによる拡大視野下で陥入部と根管の天蓋を慎重に除去した.陥入部と根管上部拡大を行った後,穿通を行った.機械的な根管形成をNi-Tiファイルとハンドファイルで行った後,拡大視野下において手用インスツルメントを用いて選択的に感染源を除去し,多種の機器を用いて根管洗浄を行った.陥入部と根管の感染源および起炎物質の除去が達成され,瘻孔および透過像の消退が観察されたため,陥入部の充塡,根管充塡をそれぞれ行った.その後,歯冠修復を行った.現在は新たな臨床症状が出現することなく,CBCT画像から術前に確認された透過像の消失が観察されたため予後良好と判断し,経過観察を行っている.
結論:患歯は外傷受傷後から無症状で経過していたが,19カ月後に生活反応が失われた複雑な根管形態をもつOehler 3型の陥入歯に対して,CBCT画像診断,マイクロスコープによる術中観察,最先端の根管洗浄器材ならびに流動性の高い根管充塡用シーラーを駆使することで,歯質を保存しつつ良好な経過が得られた.