日本歯科保存学雑誌
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症例報告
上顎第一大臼歯口蓋根にサージカルテンプレートを用いた歯根尖切除術(TEMS)を行った1症例
田中 利典八幡 祥生齋藤 正寛
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2023 年 66 巻 3 号 p. 192-202

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抄録

 緒言:根尖切除術には,到達性の観点から適応部位に限界が存在する.この問題を解決するため,デジタルデータを活用し,サージカルテンプレートを併用した歯根尖切除術(TEMS)が根尖切除術の一手法として提唱されている.今回,再根管治療で治癒にいたらなかった上顎第一大臼歯口蓋根に起因する慢性根尖膿瘍に対してTEMSを行ったところ,良好な治癒経過が得られたため報告する.

 症例:患者は45歳女性.上顎左側第一大臼歯の初回根管治療後に口蓋側の歯肉腫脹が再発したとのことで当院受診にいたった.患歯に打診痛・圧痛は認めなかったが,口蓋側の根尖付近に瘻孔を認めた.口内法エックス線写真から,近心頰側根および口蓋根の根尖周囲に透過像を確認した.既根管治療歯および慢性根尖膿瘍と診断し,感染根管治療を開始した.

 治療:再根管治療を開始したものの,口蓋側に腫脹が残存した.歯科用コーンビームCT(CBCT)の追加検査から,口蓋根は根尖切除術の適応と判断し,口蓋根管のみMTAで,他の根管はガッタパーチャとシーラーで根管充塡を行った.また,サージカルテンプレートを作製するために上顎歯列の印象採得も行った.根尖切除術に先立ち,取得したデジタルデータを歯科インプラント用治療計画支援プログラムに取り込み,トレフィンバーで口蓋根の根尖約1/3が摘出できるようにサージカルテンプレートを設計し,3Dプリンティングを行った.根尖切除術では,事前に設計した位置からトレフィンバーを挿入し,設定した深さまでドリリングすることで口蓋根根尖を摘出した.その後窩洞内の肉芽を搔爬し,生理食塩液で洗浄した後,縫合した.

 経過:術後1,3,6カ月と経過観察を行った.経過とともに,口蓋根周囲エックス線透過像の消失が確認された.また,再根管治療のみで対応した近心頰側根の根尖周囲エックス線透過像も,経過は良好だった.

 考察・まとめ:非外科的な再根管治療に反応を示さなかった上顎第一大臼歯口蓋根に対してTEMSによる根尖切除術を行ったところ,良好な治療結果が得られた.TEMSを行う際は,技工物作製や制限された術野での処置に費用や困難を伴う.一方で,適応症例においては従来の口蓋側から歯肉弁を剝離翻転して行う根尖切除術と比較して侵襲が少なく,正確かつ短時間に行うことができる.本術式は,根尖切除術を行う場合の選択肢になりうることが示唆された.

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