日本歯科保存学雑誌
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66 巻, 3 号
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総説
原著
  • 渡邉 友美, 野村 玲奈, 土藏 明奈, 堀 十月, 高橋 明里, 日下部 修介, 髙垣 智博, 横矢 隆二, 服部 景太, 岩尾 慧, 藤 ...
    2023 年 66 巻 3 号 p. 173-178
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

     目的:施設入居高齢者の訪問歯科診療における歯科衛生士の業務内容について調査し,さらに患者の要支援・要介護度との関連性について検討した.

     材料と方法:朝日大学医科歯科医療センターにて訪問歯科診療を実施する高齢者施設6施設を抽出し,要支援・要介護認定を受けた計384名(男性123名,女性261名,平均年齢83.9歳)を調査対象とした.患者の診療録,口腔ケア業務記録から,歯科衛生士の業務内容(歯面清掃・義歯管理指導・粘膜ケア・口腔機能訓練・ミールラウンド・摂食機能療法)について調査した.調査結果は,患者の要支援・要介護レベルに分類し,歯科衛生士の各業務の占める割合について,Pearsonのカイ2乗検定とFisherの正確確率検定およびオッズ比を用いて統計学的に解析した.危険率はBonferroniの方法を用いて5%に調整した.

     結果:要支援・要介護度別の歯科衛生士業務において,ミールラウンドと摂食機能療法は0であった.「要支援」群と「要介護」群では業務内容が異なり,「要支援」群では歯面清掃と義歯管理・指導のみ,「要介護」群では粘膜ケアと口腔機能訓練が加わった.また「要介護」群のなかでは「要介護3」以上の業務頻度が高い傾向が認められた.

     結論:訪問歯科診療において歯科衛生士の業務内容は,要支援・要介護度によって影響を受けることが明らかになった.

  • 鈴木 茂樹, 長谷川 龍, 佐藤 瞭子, 大道寺 美乃, 長﨑 果林, 根本 英二, 山田 聡
    2023 年 66 巻 3 号 p. 179-191
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

     目的:局所クロマチンの「ゆるみ」によるクロマチンアクセシビリティの上昇は,転写複合体の結合を可能にすることで標的遺伝子発現を促すことから,エピジェネティクスな遺伝子発現調節機構の主体である.そこで本研究では,いまだ明らかになっていないヒト歯髄幹細胞(human dental pulp stem cells:hDPSC)の分化過程における全ゲノム的なクロマチンアクセシビリティの変化をATAC-seq(Assay for Transposase-Accessible Chromatin with high-throughput sequencing)により捉えることを目的とする.

     材料および方法:hDPSCを石灰化誘導培地で12日間培養し,培養前後にATAC-seq用サンプルの調製を行った.バイオインフォマティクス解析により,オープンクロマチンピーク抽出,サンプル間比較,コンセンサスDNA結合配列(CDB)の同定,各ピークの近傍遺伝子に対するGene Ontology(GO)解析を行った.

     結果:培養0日目と12日目において有意なオープンクロマチンピークをそれぞれ45,493個と45,370個同定した.これらオープンクロマチンピークにはTEAD,RUNX,bZIPなどの転写因子群とCTCF,Borisというインシュレーター(局所クロマチンの区切り壁を形成する因子)のCDBが共通して集積していた.さらにCTCF-CDB近傍遺伝子のGO解析では,培養12日目においてのみ,TEADによって転写制御を受けるHippo signaling pathwayが上位にランクされた.CTCF-CDB近傍のHippo signaling pathwayに属する遺伝子はACTB,ACTG1,AREG,APC,DLG2,DVL1,BMP2,BMPR1B,NF2,PARD6B,SMAD2であり,BMP2やBMPR1Bなど硬組織形成分化に必須の遺伝子座が含まれていた.以上より,hDPSCの分化過程において,オープンクロマチン領域から検出されるCDBの種類に変化は少ないものの,CTCFによる局所クロマチンの3D構造変化が分化指向性遺伝子座の選択的オープンクロマチン化を引き起こすことで分化指向性遺伝子の発現が誘導されることが示唆された.

     結論:hDPSCの分化には各クロマチン領域においてインシュレーターが担うエピジェネティクスな遺伝子発現制御機構が存在しており,その統合的制御によりhDPSCの効率的な分化誘導法が確立できる可能性が示された.

症例報告
  • 田中 利典, 八幡 祥生, 齋藤 正寛
    2023 年 66 巻 3 号 p. 192-202
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

     緒言:根尖切除術には,到達性の観点から適応部位に限界が存在する.この問題を解決するため,デジタルデータを活用し,サージカルテンプレートを併用した歯根尖切除術(TEMS)が根尖切除術の一手法として提唱されている.今回,再根管治療で治癒にいたらなかった上顎第一大臼歯口蓋根に起因する慢性根尖膿瘍に対してTEMSを行ったところ,良好な治癒経過が得られたため報告する.

     症例:患者は45歳女性.上顎左側第一大臼歯の初回根管治療後に口蓋側の歯肉腫脹が再発したとのことで当院受診にいたった.患歯に打診痛・圧痛は認めなかったが,口蓋側の根尖付近に瘻孔を認めた.口内法エックス線写真から,近心頰側根および口蓋根の根尖周囲に透過像を確認した.既根管治療歯および慢性根尖膿瘍と診断し,感染根管治療を開始した.

     治療:再根管治療を開始したものの,口蓋側に腫脹が残存した.歯科用コーンビームCT(CBCT)の追加検査から,口蓋根は根尖切除術の適応と判断し,口蓋根管のみMTAで,他の根管はガッタパーチャとシーラーで根管充塡を行った.また,サージカルテンプレートを作製するために上顎歯列の印象採得も行った.根尖切除術に先立ち,取得したデジタルデータを歯科インプラント用治療計画支援プログラムに取り込み,トレフィンバーで口蓋根の根尖約1/3が摘出できるようにサージカルテンプレートを設計し,3Dプリンティングを行った.根尖切除術では,事前に設計した位置からトレフィンバーを挿入し,設定した深さまでドリリングすることで口蓋根根尖を摘出した.その後窩洞内の肉芽を搔爬し,生理食塩液で洗浄した後,縫合した.

     経過:術後1,3,6カ月と経過観察を行った.経過とともに,口蓋根周囲エックス線透過像の消失が確認された.また,再根管治療のみで対応した近心頰側根の根尖周囲エックス線透過像も,経過は良好だった.

     考察・まとめ:非外科的な再根管治療に反応を示さなかった上顎第一大臼歯口蓋根に対してTEMSによる根尖切除術を行ったところ,良好な治療結果が得られた.TEMSを行う際は,技工物作製や制限された術野での処置に費用や困難を伴う.一方で,適応症例においては従来の口蓋側から歯肉弁を剝離翻転して行う根尖切除術と比較して侵襲が少なく,正確かつ短時間に行うことができる.本術式は,根尖切除術を行う場合の選択肢になりうることが示唆された.

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