歯科医学
Online ISSN : 2189-647X
Print ISSN : 0030-6150
ISSN-L : 0030-6150
博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
根管内抗原の物理的性状が根尖病変の発現におよぼす影響
浜田 毅
著者情報
ジャーナル フリー

1991 年 54 巻 4 号 p. g3-g4

詳細
抄録

根管内には根尖病変の成立因子と考えられる多様な物質が存在する. これらの因子が根尖歯周組織に単独に, あるいは重複して作用して根尖病変が発症する機序については, 炎症性細胞の動態や歯槽骨の吸収など, 詳細にされていない点が多い現状である. これまでにも根尖病変を発症させるモデル因子としてウシ血清アルブミン (BSA) やリポ多糖を実験動物の根管内に単独で填入し, 細胞の動態や免疫応答の発現についての検討が行われているが, さらに実験を繰返して詳細な解明を行う必要があると考えられる。そこで, 同一物質で物理的に形状の異なる因子が根尖病変の成立におよぼす影響を解明する目的で, モデル因子としてBSAを表面に結合させたラテックスビーズ (BSAビーズ), BSAを結合させていないラテックスビーズ (ラテックスビーズ), 結晶粉末状のBSA (P・BSA), あるいは, アジュバントとエマルジョンしたBSA (L・BSA) を実験動物の根管内に填入し, 根尖病変を成立させて病理組織学的に検索を行ったので, その結果を報告する. 実験材料および方法 SD系ラットの下顎左右第一臼歯を抜髄し, #30まで形成した根管に, 1群 : BSAビーズ, 2群 : ラテックスビーズ, 3群 : P・BSA, 4群 : 100mg/ml BSA溶液と等量のフロインド不完全アジュバントとのエマルジョン, のそれぞれを填入し, 髄室をケタックセメント (ESPE) で封鎖した. 実験期間は3日, 1, 2および4週とし, 実験期間終了後, 動物を屠殺して下顎骨を摘出し, 3〜4℃の低温環境下で通法にしたがってパラフィン切片を作製した. 切片は, ヘマトキシリン・エオジン染色, あるいはマウス抗ラット卓球/マクロファージモノクローナル抗体 (Chemicon) とビチオン化ウマ抗マウスIgG抗体 (Vector) を用いたABC (Avidin : Biotinylated enzyme complex) 法による免疫組織化学的染色を施して病理組織学的に観察した. なお, 直径1μmのカルボキシル化ラテックスビーズ (Polysciences) をBSAおよび1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl) carbodiimideとともに4℃で2時間攪拌してBSAをラテックスビーズ表面に結合させ, 10%および58%蔗糖液による100,000×g, 2時間の濃度勾配遠心を2回行って余剰の蛋白を除去することにより, BSAビーズを調製した. 結果および結論 1. BSAビーズおよびラテックスビーズは根尖付近に多形核白血球を集積させ, のちにマクロファージを誘導した. 2. ラテックスビーズは異物肉芽腫を成立させたが, 処置後4週までにこの病変の細胞成分は著しく減少して線維化しつつある所見が得られ, 病変が早期に消退する傾向を示した. 3. BSAビーズは, 処置後2週から4週まで, 線維性結合組織に囲まれたマクロファージや泡沫細胞などを含む異物肉芽腫を成立させていた. 4. 結晶粉末状のBSAは, 全実験期間を通じて著しい細胞の集積などの組織反応を惹起することはなく, 病変は豊富な線維成分の増殖を生じて瘢痕化すると思われる所見を得た. 5. BSAとアジュバントとのエマルジョンは, マクロファージおよび泡沫細胞を含む肉芽腫様の病変を成立させた. このような病変はBSAビーズによって成立した肉芽腫と類似した所見を示していた. 以上の結果から, 根尖部における肉芽腫の形成には不溶性の微小な粒子状物質が主な原因因子となり, また, その微小粒子が抗原性を有している場合には病変内に二次的に抗体産生細胞が出現すると推察される. なお, 細胞性免疫に感作されていない状態では, 抗原性を有する微小粒子を根管内に填入しても免疫性肉芽腫は成立しないと考えられる.

著者関連情報
© 1991 大阪歯科学会
前の記事 次の記事
feedback
Top