歯科医学
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博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
熱膨張抑制埋没材を用いたときの鋳造冠の変形に関する研究
根住 正博
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1991 年 54 巻 4 号 p. g5-g6

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抄録

インレー・クラウン・ブリッジ・鋳造床などに代表される歯科分野における鋳造修復物は, 近年ますますその精密化が要求されるようになってきた. 歯科界における鋳造法は, Coleman, R. L. 以来ロストワックス法による埋没材の硬化時の膨張や熱膨張を利用して金属の鋳造収縮を補う方法がとられてきた. その後, 多くの研究者によって, 鋳造技術や使用材料の改良・開発が行われた結果, 鋳造精度も大きく向上し, 臨床的に十分通用し得る鋳造体が得られるようになってきた. しかし一方では, 鋳造体をさらに詳細に研究した結果, 作製した鋳造体が蝋型と同形・同大でないことも明らかにされてきた. これらの変形の原因について, 最近では埋没材の硬化時膨張の異方性が注目されるようになり, なかでも吸水膨張が鋳型をひずませ, 変形を伴った鋳造体を作る原因となっていることが指摘されている. しかし, これらの研究に用いられた埋没材はすべて硬化時膨張と熱膨張の両者を利用したものであり, 硬化時膨張のみを用いて鋳造冠の寸法変化を観察した報告は見当たらない. そこで, 著者は硬化時の膨張のみで金属の鋳造収縮を補償することに着目し, つぎの2つの実験からその可否を検討することにした. まず実験1として, 硬化時膨張のみで熱膨張を極力小さくし, しかもリングレス法でも鋳造操作に耐え得るリン酸塩系の熱膨張抑制埋没材を試作し, 練和液として用いるコロイダルシリカ溶液の濃度を変化させたときの鋳型材としての諸性質を測定した. 次に, 実験2として, 試作した熱膨張抑制埋没材を用い, 各種濃度のコロイダルシリカ溶液で硬化膨張量を変化させて作製した鋳造冠各部の寸法変化を検討した. その結果, 以下の結論を得た. 試作した熱膨張抑制埋没材について 1. コロイダルシリカ溶液の濃度は10%, 20%, 30%, 40%とした場合, シリカ濃度が増すに従って, 硬化時間は短くなり, 圧縮強さは大きくなる傾向を示した. 2. 熱膨張抑制埋没材の硬化時膨張量は, 練和液のシリカ濃度が増すに従って大きく現われた. 冷却収縮量は, 市販埋没材と比較して非常に小さかった. 3. 緩衝材による硬化時膨張量への影響は, シリコーンラバーを用いたものが, いずれのシリカ濃度でも, カオウールを用いたものよりも膨張が大きかった. 鋳造冠の変形について 1. 咬合面部ならびに歯頚部の外側幅径は, シリカ濃度10%と20%ではリング・リングレスの埋没法ともに収縮がみられたが, 濃度が増加するに従って膨張する傾向を示した. しかし, リング法でのシリカ濃度40%では, 膨張の抑制が認められた. また, 歯頚部外側幅径の膨張は, シリカ濃度に関係なくすべて咬合面部よりも大きな値を示した. 2. 咬合面部ならびに歯頚部の内側幅径は, シリカ濃度10%ではリング・リングレスの埋没法ともに収縮を示したが, シリカ濃度が増加するに従って外側幅径と同様に膨張が大きく現われた. しかし外側幅径とは逆に, 咬合面部の値が歯頚部よりも大きくなる傾向を示した. また, 内側幅径の膨張はいずれも外側幅径より大きな値を示した. 3. 外側高径と内側高径は, 埋没法に関係なくシリカ濃度10%でともに収縮を示したが, 濃度が増すに従って膨張が大きくなった. また, 内側高径はシリカ濃度10%以外ですべて外側高径よりも大きな膨張を示した. 以上の結果から判断して, 硬化時膨張のみに依拠して鋳造冠を作製すると様々な変形が生じることが明らかとなった. したがって, 現在, 歯科界で使用されている硬化時膨張と熱膨張の両者を利用した鋳造法では, 熱膨張が関与する以前の硬化時膨張の段階で, すでに変形が起きていると考えられ, 硬化時膨張が鋳造冠の変形の主要因をなしているといえる.

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© 1991 大阪歯科学会
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