歯科医学
Online ISSN : 2189-647X
Print ISSN : 0030-6150
ISSN-L : 0030-6150
ヒト唾液タンパク質の合成ハイドロキシアパタイトへの吸着
青木 幸子
著者情報
ジャーナル フリー

1993 年 56 巻 6 号 p. 459-474

詳細
抄録

 ペリクル形成機構に関するこれまでの研究の多くは、市販タンパク質を使用して進められてきた。本研究では、ヒト反射全唾液のゲルろ過で得た 4 画分の唾液タンパク質と合成ハイドロキシアパタイトとの吸着相互作用について検討した。なお、対照実験として市販タンパク質についても同様に実施した。
 各画分の生化学的性状を検討すると、B2 画分はヒト唾液 s-IgA と一致する分子量をもつ糖タンバク質、C2 画分はヒト血清アルブミンと一致する分子量をもつ糖結合タンパク質であった。A2 画分はウシ顎下腺ムチンに相当する糖タンパク質のほかに s-IgA を、D2 画分はヒト唾液 α-アミラーゼのほかに高プロリンタンパク質、高プロリン糖タンパク質および高ヒスチジンペプチドと考えられるタンパク質を含んでいた。
 トリス-塩酸緩衝液で調製した各濃度のタンパク質溶液に HAp をそれぞれ分散させると、HAp への各タンパク質の吸着量はタンパク濃度に比例して増加した。また、HAp 分散前後のアミノ酸組成の変化を検討すると、Pro を主体とする非極性・中性アミノ酸が減少しており、唾液タンパク質の吸着は、これらのアミノ酸の疎水結合によって支配されているものと推定された。
 タンパク質吸着 HAp およびその分散媒であるタンパク質溶液中のタンパク質の zeta 電位を測定すると、唾液タンパク質各画分の HAp への吸着は、低タンパク濃度では単分子吸着を示し、高濃度では多層吸着を示した。しかし、多層吸着によりタンパク量が増加しても、HAp 表面の電位構造は吸着タンパク質に支配されているので、高濃度下のタンパク質の吸着現象を解明するには、タンパク量の測定と zeta 電位の測定とを併用するのが有効であるといえる。
 これらの所見は、HAp への唾液タンパク質の吸着が、静電気学的相互作用および疎水性相互作用に支配されていることを示す。

著者関連情報
© 1993 大阪歯科学会
次の記事
feedback
Top