歯科医学
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博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
正常咬合者における下顎の変位に対する口唇軟組織の移動率に関する研究
土井 純子
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1993 年 56 巻 6 号 p. g43-g44

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抄録

最近, 顎変形症患者では顔貌の審美的改善への要求が高まっていることから, 術前に術後の顔貌予測を確実に行い, 患者への手術説明を行ったうえで, 手術術式の決定を行うことがインフォームドコンセントとして重要なことである. 従来著者は, これらの目的で側面頭部X線規格写真によるペーパーサージェリー, ビデオサージェリーを用いて行ってきたが, これらの方法だけでは顔貌の二次元的な予測しかできなかった. そこで, さらに顎・顔面歯列模型によるモデルサージェリーを組み合わせることにより三次元的に顔貌の輪郭およびオトガイ部の位置に関してほぼ予測が可能となってきだが, 口唇およびその周囲軟組織の側貌予測においては, やはり手術前後のセファロから求められた硬組織・軟組織移動率を基本として行われている. これらの移動率は骨切りにより三次元的に移動された顎骨に対しての軟組織の変化量を二次元的に評価したものであるため, 報告者により多少異なり, いまだ正確な移動率が求められていないのが現状である.
そこで著者は, 正中矢状面で下顎の垂直的・水平的移動に対する口唇周囲の正確な軟組織変化量を求めることを目的として, 正常咬合者の女性 15 名を対象として, 非接触型三次元曲面形状計測装置を用いて顔貌軟組織を三次元的にまず計測した. 本研究では下顎の移動は, 予め咬合器上で作製されたバイトプレートにて下顎限界運動内で, 下方へは 4 mm まで, 前方へは 7 mm までの範囲内で 1 mm 間隔で下顎を移動させたときのそれぞれの口唇軟組織移動量を求めた. そしてその移動形式は, (1)中心咬合位から垂直下方に 4 mm まで, (2)中心咬合位から前下方 45° 方向に前方 4 mm, 下方 4 mm まで, (3)中心咬合位から下方に 2 mm 移動させ, その位置から前方に 7 mm まで, (4)中心咬合位から下方に 3 mm 移動させ, その位置から前方に 7 mm まで, (5)中心咬合位から下方に 4 mm 移動させ, その位置から前方に 7 mm までの 5 通りとした. 下顎の移動に伴った個々の顔貌軟組織の三次元データを数値解析ソフトウェア上で, フィッティングプログラムを用いて移動前後の顔貌の非移動部を三次元的に重ね合わせたのち, 正中矢状面の口唇軟組織上に設けた 21 ポイントの点の移動を一次回帰直線として求め, 有意差検定を行った.
以上の下顎の移動形式と口唇軟組織の移動量を比較検討した結果, 下顎の垂直下方への移動に対しては軟組織の伸展には許容があることがわかった. また, 下顎の前方への移動に対しては, ロ裂部より上方では硬組織・軟組織移動率が 1 より小さかったが, 下方ではその移動率が 1 前後の係数であった. しかも, 本装置により硬組織・軟組織移動率が 1 以上を示す部位が多々見受けられることが明らかとなり, 従来の報告よりも正確な硬組織・軟組織移動率を求められたことにより, 外科的矯正治療施行に対してより正確な治療計画の立案に寄与することが示唆された.

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© 1993 大阪歯科学会
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