歯科医学
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博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
ネコ耳下腺管の微細形態と微細血管構築
桝 充弘
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1995 年 58 巻 1 号 p. g49-g50

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抄録

唾液腺導管系の腺外導管(主導管)はただ腺房で分泌された一次唾液を口腔内に運び出すだけでなく, 能動的にイオン交換を行い低張性唾液を形成する. 主導管の上皮細胞の形態と構成およびその周囲に分布している毛細血管の形態と構築が, 最終唾液成分の形成に重要な役割を果たしていると考えられている. 本研究はネコ耳下腺管導管上皮細胞の微細形態と微細血管構築について4か所(集合導管部, 起始部, 浅在部, 深在部)に分けて観察した. 材料および方法 本研究には成ネコを用い, 両側総頸動脈から微細血管鋳型作製法によってアクリル・プラスチックを注入した. 注入した頭部は軟組織を除去し, 金蒸着を行ったのち, 走査電顕で観察した. また他の個体は2.5%グルタールアルデヒド溶液で灌流固定を行い, 凍結割断標本としあるいはSpurr's resinに包埋して透過電顕で観察した. 結果 導管上皮細胞は偽重層上皮(多列上皮)の形態を呈し, 円柱上皮細胞, 明調細胞, 基底細胞の3種類の細胞からなっていた. 円柱上皮細胞tall columnar cellは上皮細胞の80%以上を占めており, 深在部では2または3層の重層立方上皮となって頬粘膜の重層偏平上皮に移行していた. 細胞の自由面には背の高い微絨毛を認め, 隣接細胞との接着装置は発達した複雑な指状嵌合を呈していた. 明調細胞light cellは, 集合導管部と起始部では円柱上皮細胞間に約10%介在しているが, 開口方向に向かって減少し, 深在部では認められなかった. 基底細胞basal cellは耳下腺管壁の基底側に存在し, 細胞の高さは上皮層のほぼ基底側1/3であった. 耳下腺管枝は耳下腺管全体を囲むように内, 外2層の血管鞘を形成していた. 外血管鞘は細動脈と細静脈, 内血管鞘は毛細血管網でそれぞれ構成されていた. 外血管鞘では細動脈が耳下腺管枝から分節的に派出され, 細動脈間の吻合は浅在部では多数認められるが, 深在部では認められなかった. 毛細血管からの血流は直接口径の太い細静脈へ流入し, 隣接のものと吻合を繰り返し, 耳下腺管全体を包む静脈網を形成していた. 内血管鞘では毛細血管網の網目は部位による相違がみられ, 集合導管と起始部では類円形を呈し, 浅在部では耳下腺管の長軸方向に長い楕円形, 深在部ではハシゴ状を呈し, 耳下腺管乳頭では毛細血管は遊離端に沿って不規則で蛇行したループを形成し, 頬粘膜上皮下毛細血管に移行していた. 考察と結論 ネコ耳下腺の集合導管と耳下腺管の導管上皮細胞の構成はラットの耳下腺管とまったく異なっており, 偽重層上皮の形態を示していた. ネコの細胞間の指状嵌合は特有の形態を示していた. 毛細血管網形態の部位差は, 集合導管と起始部では物質輸送に関連があるが, 浅在部では毛細血管の分布密度が低下し, 同時に物質輸送も低下していると考えられる. また, 深在部ではハシゴ状を呈し, はとんど物質輸送には関与していないものと考える.

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© 1995 大阪歯科学会
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