歯科医学
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博士論文内容要旨および論文審査結果要旨
難治性根尖性歯周炎病巣から分離したバイオフィルムを形成するEscherichia hermanniiの粘性物質産生に関わる遺伝子クラスター(大阪歯科大学大学院歯学研究科博士(歯学)学位論文内容要旨および論文審査結果要旨の公表)
水川 健司
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2007 年 70 巻 3_4 号 p. A8-A9

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抄録

根尖性歯周炎の難治化をもたらす,バイオフィルム様構造をもったEscherichia hermannii strain 11-2(E. hermannii strain 11-2)を対象に遺伝子解析を行い,バイオフィルム形成に関与すると推定される複数の遺伝子クラスターを特定するとともに,菌体性状との関係についても追究した.E. hermannii strain 11-2ゲノムに,トランスポゾン(EZ-Tn 5^<TM> <KAN-2>)を用いたランダムインサーションによる変異導入を行い,得られた変異導入株のうち,粘性物質産生性を失った株を,培地の粘度を指標にスクリーニングした.この変異株のトランスポゾン挿入箇所周囲の遺伝子配列は,DNA walkingにより求めた.菌体性状については,菌体表層構造の走査電子顕微鏡観察,アビオティックマテリアルへの付着性,LPSの性状,糖・タンパク合成能の変化を中心に検討した.トランスポゾンを用いたランダムインサーションによる変異導入の結果,486株が得られた.このうち,粘度が低下した株は6株(strains 8,9,140,186,292,455)であり,粘度と細胞表層の網目状構造の両方を欠き,完全にバイオフィルム形成能を失った変異株は1株(strain 455)であった.DNA walkingにより変異導入箇所周辺を解析したところ,変異はグラム陰性菌外膜リボ多糖(LPS)のO-糖鎖付加に関わるPerクラスター,LPSouter coreの糖鎖合成を行うWaaクラスターに存在していることが明らかとなった。親株,変異株とも,アビオティックマテリアルへの付着性は示さなかった.それぞれの株から精製したLPSを電気泳動解析したところ,変異株のパターンは親株とは異なることが明らかとなった.コンゴレッド培地,クマシー・コンゴレッド培地上で,糖合成,タンパク合成能について検討したところ,親株・変異株間で大きな差異は認められなかった.以上の結果から,E. hermannii strain 11-2のLPS合成に関わるPerクラスター,Waaクラスターへの変異導入が,培養菌液の粘性と菌体間結合に影響を及ぼすことが明らかとなった.Perクラスター内のABCトランスポーターであるWzt遺伝子のノックアウト株でのみ,培地の粘性と菌体表層の網目構造の両者が消失したことから,E. hermannii strain 11-2のバイオフィルム形成が,Wzt/Wzm依存性の膜輸送を介して行われている可能性が示唆された.

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© 2007 大阪歯科学会
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