2008 年 71 巻 2 号 p. 123-130
歯科矯正の臨床において,歯の移動は歯槽骨内に限定される.しかし歯槽骨の内部構造は複雑で,歯根と皮質骨が接すると歯根吸収や歯槽骨の吸収,歯の動揺を引き起こすことがある.このような状態は一般的に非可逆性であり,矯正治療の予後の不安定要因になる.そこで,本研究では,咬合力が集中する第一大臼歯根尖相当部の歯槽骨内部の構造と,歯槽骨形成に関与すると考えられる咬合力,咬筋の形態,顎顔面形態との関連について分析を行った.成人男性18名を被験者とし,歯槽骨内部の構造をコーンビームCTを用いて評価した.顎顔面形態は頭部X線規格写真にて分析した.咬合力の評価にはデンタルプレスケールを用いた.咬筋の形態はMRIにて撮影し計測を行った.歯槽骨の内部構造が各分析項目にどのような影響を与えているかを調べた.その結果,下顎第一大臼歯根尖部の歯槽骨の皮質骨の幅径が大きく,海面骨の幅径も大きいものはFMA,Y-axisが大きく,High Angleの顎顔面形態をもつことが示された.また,皮質骨の幅径の小さいもの,海面骨の幅径の小さいものはFacial Angle, Saddle Angle, Cd-Goが大きい傾向を示し,Low Angleで下顎骨の大きな顎顔面形態を示すことが分かった.また,海面骨の幅径が小さいものは咬筋の体積や咬合力,咬合接触面積が大きい傾向を示し,皮質骨よりも海面骨の厚みのほうが,筋の機能力に関与していることが示された.