歯科医学
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大阪歯科学会例会講演報告
第550回大阪歯科学会例会
大阪歯科大学小児歯科学講座
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2016 年 79 巻 2 号 p. 77

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抄録

静置培養時と振盪培養時の Rothia mucilaginosa の遺伝子発現の比較

古森賢・山根一芳・王宝禮(大阪歯大・細菌)

口腔感染症から分離される細菌には,シュクロース非依存性に菌体外マトリックスを産生する株が存在する.これらの細菌の産生する菌体外マトリックスは貪食抵抗因子として働くだけでなく,菌体を周囲の環境から保護し,疾患の慢性化,難治化に重要な役割を果たすことが分かっている.我々はこれまでに数回の根管治療にもかかわらず,持続的に単一の細菌種が分離される難治性根尖性歯周炎の病巣からRothia mucilaginosa DY­18 株(DY­18 株)を分離し,この菌株が菌体外マトリックスを産生することで治療に抵抗して病巣で長期に生存することを明らかにしてきた.また,我々はDY­18 株の産生する菌体外マトリックスが,中性糖として主にガラクトース,マンノース,ラムノース,グルコースを含み,アミノ糖として少量のグルコサミンとガラクトサミンを含む菌体外多糖(exopolysaccharide, EPS)であり,このEPS がDY­18 株のバイオフィルムの構成因子になっていることを報告した.

本研究ではDY­18 株のバイオフィルム形成について更に詳細に検討し,その遺伝学的な背景を明らかにする ことを目的に,浮遊状態の細胞と,バイオフィルム形成状態の細胞の遺伝子発現をマイクロアレイ分析した.走査型電子顕微鏡観察の結果,DY­18 株の菌体表面には,バイオフィルム形成菌の特徴である菌体間の網目様構造物が存在していた。さらに,培養菌液の粘度からEPS の産生量を経時的に測定すると,種菌接種30 時間後から42 時間後まで粘度が著しく上昇し,EPS の産生量が増加していた.また,種菌接種36 時間後の振盪培養した浮遊状態と,静置培養したバイオフィルム形成状態の培養菌液の粘度を比較したところ,振盪培養では粘度上昇が認められず,静置培養時とはEPS の産生量に大きな差があることが示された.そこで,我々が決定したDY­18 株のgenome の配列とアノテーションを基にマイクロアレイをデザインし,浮遊状態とバイオフィルム形成状態の細胞における遺伝子の発現量を測定した.両培養条件における各遺伝子の発現量を比較した結果,バイオフィルム形成状態でDNA polymerase III subunit beta(NCBI locus tag ;RMDY18_00020),signal transduction histidine kinase(RMDY18_00350),mo­ lecular chaperone DnaK(RMDY18_16800)をコードする遺伝子が有意に発現上昇していることが明らかになった.これらの遺伝子は,DY­18 株のバイオフィルム形成に重要な役割を果たしていると考えられる.

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