2009 年 41 巻 10 号 p. 1131-1135
症例は63歳, 男性. 胸背部痛にて当院救急受診し, 造影CT上両側主肺動脈に血栓を認め急性肺血栓塞栓症と診断された. ヘパリンにて治療開始したが翌日心肺停止状態となり, 蘇生処置を行い経皮的心肺補助装置(percutaneous cardiopulmonary support; PCPS) 装着, カテーテルでの血栓破砕を行い循環動態は回復した. その後, 播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation syndrome; DIC) の状態となりヘパリンを一時中止し, DICが改善した第5病日よりヘパリン再開し継続していたが, 第14病日に右下肢の腫脹・疼痛が出現し, 下肢静脈血栓症の悪化を認めた. 血小板数は数日で半数近くへ減少しておりヘパリン起因性血小板減少症(heparin-induced thrombocytopenia; HIT) が疑われ, ヘパリンを中止しアルガトロバンを開始し, 症状の改善を認めた. 抗HIT抗体は陽性であった. ほかの血栓素因としてLA因子陽性で, ほかに基礎疾患がないことから原発性抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome; APS) と考えられ, 原発性APSが素因となり急性肺血栓塞栓症を発症したと考えられた. APSを基礎疾患とした急性肺血栓塞栓症にHITを合併した稀な1例を経験したので報告する.