2009 年 41 巻 12 号 p. 1377-1381
背景:頭頸部悪性腫瘍のうち失神発作を伴う頻度は,250~300症例に1例と報告されており,失神の原因疾患として循環器内科医が遭遇することは極めて稀である.また,ほかの頸動脈洞失神と異なる特徴がある.
症例:76歳,男性.2008年3月初旬より失神発作を繰り返すようになり精査加療目的で入院.入院当初,発汗を主とする著明な自律神経症状・小脳症状より多系統萎縮症,なかでもシャイ・ドレーガー(Shy-Drager)症候群が疑われた.しかし,入院経過中に頸部・舌の急激な腫脹と気道狭窄の進行を認め,中咽頭癌の診断にいたった.気管切開後,耳鼻咽喉科・放射線科において化学・放射線療法を開始した.Stage IVであり根治は困難であったが,失神発作の頻度は著明に減少した.
結論・考察:経過より,失神の原因は悪性腫瘍の浸潤または圧排によるcarotid sinus syncopeまたはglossopharyngeal neuralgiaが考えられたが,いずれも特徴的な症候を欠いており,parapharyngeal lesions syncope syndromeであると考えられた.また著明な小脳症状についてはそれだけでは説明できず,Shy-Drager症候群も完全には否定できなかった.頻度は少ないが,明らかな誘因がなく持続時間の長い頻回の失神発作をみた場合,頭頸部悪性腫瘍の検索も念頭に置くべきである.