症例は63歳, 女性. 生来健康. 2週間前より発症し, 次第に増悪する労作時呼吸困難を主訴に, 2007年12月近医を受診し, 同日当院に紹介入院となった. 著明な肺高血圧症(三尖弁圧較差102mmHg), 右肺腫瘤性病変, 血小板減少などの所見が指摘された. 緊急胸部造影CT検査では肺血栓塞栓症は否定的であった. ほかの肺高血圧症をきたす疾患も考慮したが合致せず, 原因不明の肺高血圧症として, 酸素投与などの対症療法を行った. 翌日急速に呼吸状態が悪化して死亡した(来院26時間後). 剖検の結果, 右肺に腺癌が確認された. また両肺の肺細動脈レベルにおいて, 腫瘍塞栓, 血栓形成, 線維細胞性内膜増殖などの所見を認め, これにより血管内腔の偏心性狭窄~閉塞をきたしていた. 肺腫瘍塞栓微小血管症(pulmonary tumor thrombotic microangiopathy; PTTM)に合致する所見で, 直接死因となった肺高血圧症の原因と診断された. 血小板減少はこの病態に合併する播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation syndrome; DIC)と考えられた. 亜急性に生じた肺高血圧症の原因を生前診断できず, 剖検にて確定診断がついた貴重な症例であるため報告した.