2010 年 42 巻 5 号 p. 682-687
症例は82歳,男性.高度大動脈弁逆流で通院治療中であった.最近,浮腫と易疲労感が増悪し,胸部X線上肺うっ血はないが心拡大が著明で,また心エコー検査で大量の心膜液貯留と振子様運動がみられ,心タンポナーデと考えられ入院となった.入院後,心膜ドレナージにより症状は一時改善し,排液後27日目に退院した.しかし,退院5日後に急性肺水腫で救急受診し,再入院となった.再入院後,血漿BNP値は3,283pg/mLと前回入院時の579pg/mLに比べ著明な上昇を認めた.肺水腫に対する治療および心膜液の再貯留とともにBNP値は948pg/mLと低下し,肺うっ血徴候も改善した.本例では心タンポナーデに起因する静脈還流の減少による左室前負荷の減少や,心膜腔内圧の上昇による左室拡張期圧の上昇が,高度大動脈弁逆流による肺うっ血の出現に対して防御的に作用したものと考えられた.心膜ドレナージに際しては排液後の血行動態の変化を考慮したうえで施行することが重要な例と思われたため報告する.