2012 年 44 巻 1 号 p. 75-79
症例は76歳, 女性. 71歳時に心雑音の精査で僧帽弁後尖内側(medial scallop; P3) の逸脱および中等度僧帽弁逆流を指摘されていた. 1カ月前より労作時息切れの増悪を自覚するようになり, 心エコー図上, P3の腱索断裂と高度僧帽弁逆流をきたしていた. さらに, 以前は指摘されていなかった変性性大動脈弁狭窄を合併しており, 連続波ドプラによる最大圧較差は64.8mmHgと中等度であるが, プラニメトリ法による弁口面積は0.54cm2と重症で著しい石灰化を伴っていた. 大動脈弁狭窄による左室収縮期圧の上昇が僧帽弁逸脱から腱索断裂への進展に関与したものと考えられ, 一方, 高度僧帽弁逆流による心拍出量低下は大動脈弁狭窄の圧較差を減弱した可能性がある. 僧帽弁逸脱, 腱索断裂と大動脈弁狭窄, 僧帽弁逆流と大動脈弁狭窄の重症度評価がそれぞれに関与しあった興味深い1例であった.