抄録
背景 : 高齢化社会のわが国では退行性病変による心臓弁膜症が増加し僧帽弁逆流もその1つである. 若年者では遠隔生存率あるいは弁関連合併症の回避からみて弁形成術が推奨されているが, 高齢者の治療成績は明らかとなっていない. 方法 : 1991年1月から2010年4月までに僧帽弁逆流に対して僧帽弁形成術を受けた70歳以上の連続203例を対象とした. 平均年齢は74±3歳 (70~88歳), 男性92例 (45%) で, 85例 (42%) がNew York Heart Association functional class III-IVであった. 僧帽弁逆流をCarpentier分類で分けるとtype I 39例, type II 134例, type IIIa 30例でtype II, いわゆる弁逸脱が66%であった. 基本的にはCarpentierテクニックとePTFEによる人工腱索再建術, リングによる弁輪形成術によって僧帽弁形成術を行った. 併施手術は147例 (72%) に行った. 203例全例でフォローアップは完了し平均追跡期間は4.7±3.7年であった. 結果 : 病院死亡は11例 (5.4%) 認め, そのうち5例は非心臓死であった. 病院死を含む生存率, 心臓死回避率は5年で85±3%, 95±2%, 10年で66±6%, 82±5%であった. 血栓塞栓症回避率は5年で87± 3%であった. 心エコーフォローアップでは中等度以上の僧帽弁逆流回避率は5年で96± 2%であり, 再手術回避率 (5年) は96±2%であった. 結論 : 僧帽弁逆流に対する僧帽弁形成術は高齢者においても遠隔成績が優れており, 外科治療の1つの選択肢である. 今回のわれわれの成績は日本の高齢者に対する僧帽弁形成術のbenchmarkになると考えられる.