抄録
目的 : 心筋梗塞後のQRS波の周波数パワー分布の特徴を示すことを目的とした. 方法 : 急性心筋梗塞で経皮的冠動脈ステント留置術 (PCI) を施行された前壁心筋梗塞37例と下壁梗塞30例, ならびに心臓疾患を有していない30例 (コントロール例) を対象とした. PCI後 1カ月以内に, sampling rate 10kHzの条件で0.1~300Hzの周波数帯の標準12誘導心電図 (ECG) を20秒間記録した. ⅡまたはV1誘導にwavelet解析ソフトを用いて wavelet transformed electrocardiographic signal (WT-ECG信号) を測定し, 5~300Hzの周波数領域でQRS波開始から120msecの区間で積分を行い integrated time-frequency power (ITFP) を算出した. 次に各周波数ごとに梗塞例とコントロール例のITFP値の比を計算した. 結果 : 心筋梗塞例のQRS内周波数分布の特徴として, Ⅱ誘導では60Hz以下, V1誘導では14-74Hzの周波数域でITFPが減少, Ⅱ誘導で120-210HzでITFPが増加した. また, 非Q波梗塞例の周波数分布もQ波梗塞に類似していた. 結語ならびに考察 : 心筋梗塞例のQRS内周波数分布異常は, 発電体としての心臓変化の反映であり, 従来のECGでは捕捉されない情報が表れていると推定される.