心臓
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[症例]
僧帽弁切迫嵌頓により重症心不全を呈した巨大左房粘液腫の1例
福田 信之井内 和幸稲尾 杏子能登 貴久野々村 誠三崎 拓郎名倉 里織深原 一晃
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2014 年 46 巻 1 号 p. 47-52

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抄録

 症例は慢性閉塞性肺疾患 (chronic obstructive pulmonary disease ; COPD) で近医通院加療中の68歳, 男性. 2 カ月前より労作時息切れを自覚し, 呼吸機能検査で閉塞性障害を認め, COPD増悪と診断され抗コリン薬吸入を追加された. しかし, 呼吸困難は増悪し起座呼吸の状態で当院へ救急搬送された. 心音ではⅠ音亢進, tumor plopを聴取し, 胸部X線, CT上は肺の気腫性変化に加え, 肺うっ血および両側胸水を認めた. 心臓超音波検査では左房全体を占める可動性良好な径80×65mmの巨大腫瘤が拡張期に僧帽弁輪を越え左室内に陥入し, 腫瘤により僧帽弁狭窄をきたし, 切迫嵌頓の状態と考えられた. 腫瘤は心房中隔に付着するstalkを有し左房粘液腫が疑われた. 巨大左房内腫瘤の僧帽弁口への切迫嵌頓に伴う心不全の状態であり, 緊急で左房腫瘤摘出術を施行した. 手術所見では左房内を占める巨大な腫瘤が僧帽弁にはまり込むように存在し, 組織病理診断で粘液腫と診断された. 開心術後の心臓リハビリテーションを行い, 経過良好に退院された. 呼吸困難が主訴であったが, 原疾患がCOPDのため診断にいたるまで時間を要し, 粘液腫も巨大化したと思われた. 診断は心臓超音波検査で行われたが, Ⅰ音亢進, tumor plopを聴取し, 日常診療で遭遇する機会が少ない左房粘液腫においても内科診断学に基づく身体所見が重要であると考えられた. 聴診能力を高めることが循環器診療の診断率向上につながることを再認識させてくれた貴重な1 例であった.

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© 2014 公益財団法人 日本心臓財団
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