2015 年 47 巻 SUPPL.2 号 p. S2_119
症例は76歳女性で, 発作性心房細動で通院中に洞不全症候群を合併しペースメーカー植え込み術を施行されている. また既往歴に気管支拡張症がありクラリスロマイシンを連日内服している. 2014年5月より心房細動発作の頻度, 持続時間が増加傾向にあり, 慢性化を懸念されベプリジル200mg/日の投与が開始された. しかし, 同年9月に意識消失を主訴に当院救急外来に搬送され, うっ血性心不全の診断で入院となった. 心臓超音波検査では左室駆出率は33%と低心機能を認め, 入院約1カ月前と比較して明らかな低下を認めた. 心電図は洞調律であったがQT時間は延長しBazettの補正式によるQTcは584msecであった. また, ペースメーカーに記録された心内EGMではtorsade de pointesと考えられる心室頻拍が記録されていた. 心室ペーシング率に変化はなかった. ベプリジルの血中濃度は512.7ng/mLと明らかな中毒域ではなかったが, 中止後にQTc時間は徐々に短縮し同時に心機能も改善した. 入院後に合併したせん妄や不眠に対し精神科と連携し治療を行い第23病日には軽快退院した. 急激な心機能低下の原因として, 心房細動による頻脈, ペースメーカーによる左室同期不全, 虚血性心疾患, 心膜心筋炎等を鑑別に挙げたが否定的であった. 広義のカルシウム拮抗薬であるベプリジルは, 他の抗不整脈薬に比べ心抑制作用は少ないと考えられるが, 市販後使用成績調査では心不全をきたした報告もある. ベプリジルによるQT延長と心抑制に関して文献的考察を加えて報告する.