2019 年 51 巻 2 号 p. 174-180
症例は42歳女性.生来健康であった.娘の受験発表による精神的ストレスの翌日,突然の安静時胸部圧迫感を認め急性冠症候群の疑いで当院紹介となった.心電図上Ⅱ,Ⅲ,aVFでST上昇,心エコー図検査で下壁と心尖部に壁運動低下を認め緊急冠動脈造影を施行した.有意狭窄を確認できず左室造影で心尖部無収縮を認めたため,たこつぼ型心筋症として保存的治療の方針とした.しかし冠動脈造影再読影時に左前下行枝最末梢部に血流途絶を認め,ST上昇型急性心筋梗塞と診断した.4カ月後の冠動脈造影では,左前下行枝血流はTIMI 3で正常化しており,冠攣縮誘発試験は陰性であった.光干渉断層法では,責任病変は左前下行枝最末梢部のため観察できなかったが,病変部より中枢側には異常所見を認めなかった.急性冠症候群の原因として古典的冠危険因子を認めず,薬物使用,アレルギー,発作性心房細動,卵円孔開存,血液凝固異常の合併なく血栓塞栓症は否定的で,非動脈硬化性冠動脈疾患の1つである特発性冠動脈解離が最も考えられた.急性冠症候群が疑われる若年女性では常に特発性冠動脈解離を念頭におく必要がある.