2020 年 52 巻 3 号 p. 313-319
症例1:90歳代女性.完全房室ブロックによる意識障害で入院した.入院時に施行した心エコーでは左室駆出率は60%で局所壁運動異常は認められなかった.一時的ペーシング後,リードレスペースメーカ植込みを行った.術後に肺うっ血が増悪し,植込み後2日目に施行した心エコーで心尖部無収縮を認めたことから,たこつぼ症候群が疑われた.保存的に加療し,心機能はほぼ正常に改善した.
症例2:80歳代女性.完全房室ブロックによるうっ血性心不全で入院した.入院時に施行した心エコーでは,左室駆出率は60%で局所壁運動異常は認められなかった.一時的ペースメーカを留置し心不全加療を行ったのちに,リードレスペースメーカ植込みを施行した.術中はトラブルなく終了.植込み後2日目に肺水腫となり,呼吸状態が増悪した.心エコーで心尖部のバルーニングを認め,たこつぼ症候群様であった.植込み後9日目にセンシング不全が判明した.ペースメーカチェックでは,心不全発症に一致して,閾値,波高の悪化を認めた.心不全改善とともに閾値,波高は改善し安定した.その後,誤嚥性肺炎を契機に状態悪化し永眠した.
2症例とも,冠動脈造影は未施行であるが,経過よりたこつぼ症候群が疑われた.たこつぼ症候群は,経静脈ペースメーカ植込みによる稀な合併症としてあげられているが,リードレスペースメーカ植込みを契機に発症した例はまだ報告がない.比較的低侵襲であると考えられていたリードレスペースメーカ植込みでも,手技による侵襲が身体的ストレスとなりたこつぼ症候群を発症する可能性があることに留意する必要がある.