心臓
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[症例]
長期的に臨床経過を観察し得た,完全房室ブロックを合併したラミンA/C遺伝子異常による心筋症の1例
賀来 文治大島 央井ノ口 安紀北川 直孝勝田 省嗣林 研至津田 豊暢高村 雅之
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2020 年 52 巻 9 号 p. 1057-1066

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抄録

 症例:56歳女性.家族歴:母が40代でペースメーカー植込み.母,兄,母方の叔母,叔父,祖母が突然死.現病歴:42歳時に完全房室ブロックおよび心房性不整脈を認め,他院でDDDペースメーカーの植込み(心室は右室心尖部ペーシング)が実施され,43歳時に当院へ紹介となった.初診時の心胸郭比45.7%,BNP 45 pg/mL,左室拡張末期径49 mm,左室収縮末期径32 mm,心室中隔壁厚10 mm,左室後壁厚8 mm,左室駆出率64%(Teich法).51歳時に非持続性心室頻拍を認め,53歳時に遺伝学的検査を行いラミンA/C遺伝子異常(LMNA, c. 339dupT, p.K114XfsX1)を見出した.経年的に心縮能の低下(53歳時 カ室駆出率50%,56歳時 カ室駆出率39%)とBNPの上昇を認め,56歳時に心不全で入院となった(BNP 299 pg/mL).入院後にDDDペースメーカーからCRT-Dへアップグレードを実施した.両室ペーシング治療開始後も左室駆出率の改善は認められなかったが,心不全は小康状態となり,BNPも110-180 pg/mL台へ改善した.

 考察:ラミンは核膜の裏打ち蛋白で,核膜の保持やDNA転写に関与する.ラミンA/C遺伝子異常により,伝導障害,心房-心室性不整脈,心機能低下が経年的に進行する.伝導障害を伴う心機能低下例では,同遺伝子異常の存在も念頭に置き診療に当たる必要がある.また,拡張型心筋症のうちラミン遺伝子異常を有する症例は特に予後不良であるとともに,共通した疾患特異性がある.このため,拡張型心筋症に対するより良い治療戦略を考える上でも,原因遺伝子の判別は重要であると考えられた.

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