心臓
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[症例]
遠隔期に無症候性心筋梗塞を起こした川崎病性巨大冠動脈瘤の1例
中村 蓉子石井 卓松村 雄渡邉 友博細川 奨渡部 誠一
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2021 年 53 巻 3 号 p. 266-270

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抄録

 症例は4歳時に罹患した川崎病により巨大冠動脈瘤を有する20代男性.急性期治療に免疫グロブリン療法を2回施行したが,発熱は14日間続き心筋炎も合併した.急性期の冠動脈病変は右冠動脈(RCA)中央部と左前下行枝(LAD)近位部にみられ,経過中にLAD瘤内に壁在血栓を疑う所見があり血栓溶解療法を施行した.罹患後1年の冠動脈造影ではLADの拡張は退縮したが,RCAは瘤が残存した.以後3年おきに造影CT検査を施行し,RCAの瘤は最大径10 mm前後の巨大冠動脈瘤となり全周性に石灰化を認めていた.このため,発症後遠隔期においてもアスピリンおよびワルファリンカリウムをPT-INR:2.0-2.5を目標値として継続していた.19歳までの心エコー検査,心電図による定期検査では虚血所見を認めなかったが,20歳時の心電図検査で・誘導とaVF誘導に陰性T波を認めた.心エコー検査では左室心尖部に壁運動低下を認め,心臓MRI検査では同部位の遅延造影が陽性であった.右冠動脈造影ではRCA中央部の瘤内に全周性の石灰化を認めたが内部の有意狭窄は認めず,末梢の描出も良好であった.左室造影ではRCA後下行枝領域(左室下壁)の壁運動低下を認めたが,駆出率は75.6%と保たれていた.再疎通を伴う左室下壁の無症候性心筋梗塞と診断し,抗凝固療法を強化し保存的に経過観察する方針となった.川崎病性巨大冠動脈瘤では抗凝固療法下においても遠隔期に心筋梗塞を生じるリスクを念頭におく必要があり,禁煙などの生活指導も含めた包括的管理も重要である.

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