心臓
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[症例]
利尿薬抵抗性の2型糖尿病を合併した虚血性心不全に対してエンパグリフロジンが著効した1例
八木 一成藤永 裕之飯間 努藤澤 一俊川田 篤志岡田 歩山本 浩史
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2021 年 53 巻 6 号 p. 583-588

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抄録

 症例は70代男性,主訴は発熱と浮腫,既往歴には2型糖尿病,高血圧症および脂質異常症があり,虚血性心疾患に対するカテーテル治療およびうっ血性心不全での複数回の入院加療歴がある.今回発熱と下肢脱力感および著明な全身浮腫を認め,緊急受診となった.心電図では左脚ブロックを認め,胸部X線およびCTでは右側の肺炎様陰影と両側のうっ血および胸水を認めた.心エコーでは左室前壁中隔から心尖部および側壁にかけて壁運動低下を認め,左室駆出率も33%と低下していた.脳性利尿ペプチドは2820 pg/mLと著明に上昇し,推定糸球体濾過量40 mL/min/1.73 m2と慢性腎臓病の悪化を伴っていた.以上より肺炎と腎臓病の悪化を契機とした慢性心不全の急性増悪と診断し,非侵襲的人工呼吸管理を開始し,抗菌薬,ループ利尿薬およびカルペリチドの投与を開始した.しかし浮腫やうっ血が改善しないためトルバプタンも追加したが,利尿効果は限定的であった.血糖コントロールと利尿効果を期待してエンパグリフロジンを投与したところ著明な利尿が得られ,うっ血および胸水は改善し,その後も利尿が継続し軽快退院できた.エンパグリフロジンは大規模臨床研究にて心血管疾患を持つ2型糖尿病患者での心血管疾患の死亡および心不全入院を低下させることが報告されている.今回の症例から,同薬剤がループ利尿薬やトルバプタンに抵抗性の心不全増悪時にも有効な可能性があると考えられた.

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