抄録
僧帽弁狭窄症,大動脈弁閉鎖不全症を伴った左冠状動脈から肺動脈主幹部における異常交通症の1例を経験した.症例は34歳の女子で,はっきりしたリウマチ熱の既応はないが32歳で脳塞栓症を発症し,このときに,心弁膜症を指摘され,入院した.典型的な僧帽弁狭窄症の心雑音に加え,胸骨左縁に収縮期雑音,高調な拡張期雑音を聴取しMS+AIと診断した.心カテーテル,心血管造影を施行したところ肺動脈圧上昇を認め,大動脈造影で大動脈弁逆流と冠状動脈から出る異常血管が判明した.選択的冠動脈造影では,左冠動脈前下行枝から肺動脈主幹部に向う交通血管を証明した.この例では,雑音が連続性でなく診断を困難にした.先天性冠動脈異常に心弁膜症が合併することはまれであるが,心弁膜症手術時に往々,術前に判明しなかった冠動脈異常が大出血の原因となることが報告されているので注意が必要である.