1980 年 12 巻 12 号 p. 1418-1427
房室弁両室挿入症はきわめてまれな発生異常で,その発生機序は総房室口が右方(心球)へ移動する発生過程の早期停止または過剰偏位と考えられており,複雑心奇形に合併することが多い.われわれはこれまで剖検により6例で本症を確認している.その内訳は単心室2例,TGA 1例,Taussig-Bing Heart 2例,修正大血管転位症1例である.本症の診断は困難でありこれらのうち術前に診断のついた症例はなかったが,1例でUCGにて本症を疑った.また剖検後の心血管造影所見の再検討により4例に本症を疑うべき所見が得られている.基本疾患に複雑心奇形を持ち外科治療のきわめて困難な場合が多い.2例に根治手術を施行し,3例に姑息手術を施行した.三尖弁両室挿入を合併したTGAや僧帽弁両室挿入を合併したTaussig-Bing Heartに対してはそれぞれの弁置換も考慮する必要があるが,幼少時期の根治手術は容易ではないので待期的手術の重要性も強調したい.