抄録
腱索断裂による僧帽弁閉鎖不全症4例について,その臨床所見と超音波断層法による断裂部位診断法を検討した.左心不全を繰り返した症例1では.細い腱索が5本切れていた.急激に発症し左心不全が持続した症例2では,太い腱索が切れていた.発症が不明で徐々に症状が増悪した症例3は,弁尖の肥厚と萎縮があり,すでに閉鎖不全があった上に腱索断裂を合併したものと思われた.したがって臨床症状とその経過は,腱索断裂の発生機序により異なると思われる.3例では,左房圧V波に類似した傍胸骨拍動が記録され,左房拍動波と診断した.左房拍動波は,他の原因による僧帽弁閉鎖不全ではみられず,本症の特微的所見と思われる.全例,超音波断層法により腱索断裂部位の診断を行い,手術した3例で確認できた.僧帽弁の短軸方向断層図で,腱索断裂部の弁尖付近が,拡張中期に弁口側へ折れ曲ったように偏位する所見が,部位診断上重要である.