症例は67歳女性,34歳ごろに意識喪失発作が1回あった.48歳ごろから易疲労感,動悸,めまい発作を繰り返していた.胸部X線にてCTR72%,心陰影中央に9×10cmの辺縁の石灰化した類円形陰影がみられた.心エコー図で左房内をほぼ充満するほとんど可動性のない巨大な腫蕩が左房壁に広く癒着している像が認められた.左室造影にて僧帽弁逆流を認めた.手術所見では,腫瘍は心房中隔左房側に広く癒着し可動性はほとんどなく,僧帽弁輪拡大を認めた.摘出した腫瘍は直径9cm,重量270gの粘液腫であった.
本例は,粘液腫が比較的早期から中隔壁へ癒着し可動性がないために周辺組織を機械的に損傷することなく巨大に発育し,弁輪を拡大し僧帽弁閉鎖不全をきたしたと思われる.腫瘍の可動性がないため僧帽弁口の機械的狭窄度も弱く,僧幅弁逆流が主体となりそのため重篤な症状を伴うことなく巨大に発育し得たものと推定された.