抄録
症例は64歳男性.発作性の収縮期血圧50mmHg以下の低血圧と20回/分以下の洞徐脈により数分間の意識消失発作をくり返した.誘因は明らかでなく鼻閉の増悪と共に発作の頻度も増加した.両側上頸部に上咽頭腫瘍の転移による母指頭大のリンパ節腫脹を認めた.頸動脈洞圧迫で収縮期血圧は前値に比し40mmHg低下し,心周期は1.96秒まで延長し過敏反応を示した.原発巣および頸部の転移巣へ放射線療法開始後発作は全く消失し,頸部リンパ節腫脹も著しく縮小したが,4,000rad照射後も頸動脈洞圧迫に対しては同様の反応を示した.発作を説明しうる神経学的異常や器質的心疾患を認めず,頸動脈洞圧迫に対する過敏反応および放射線療法の効果からhypersensitive carotid sinus syndromeと診断し,これには頸部リンパ節腫脹が関係していたものと考えられた.本症例の発作時には右室ペーシングは低血圧を改善させず,硫酸アトロピンの静注が著効を示した.