抄録
大動脈弁膜症において血行動態的に重要な逆流度や左室大動脈間圧較差の程度を非観血的に評価を行う目的として,大動脈弁膜症35例(AR 22例,AS 6例,ASR 7例)を対象に超音波ドプラー血流計ならびにreal-time spectrum analyzerを用いて,術前および術後1カ月目に各末稍動脈で測定し,その流速波形をパターン分析し,さらに総大腿動脈の流速波形の6指標の数値的解析を試み,以下の結果を得た.1.ARでは,各末稍動脈の中で総大腿動脈はsellers II度以上で初めて拡張期逆流相が出現し,その他の動脈ではSellers III度以上で出現した.総大腿動脈の拡張期逆流相のタイプをA,B,Cの3つに分類したが,Sellers分類とよい相関を認めた.2.ASでは,手術対象例は急速前進相の低下がみられ,さらに波形分析の各指標の中でPTの延長と左室大動脈間圧較差が比較的よい相関を示した.3.ASRでは,圧較差40mmHg以下では拡張期逆流相の防げにならなかった.圧較差60mmHg以上では,逆流の程度にかかわらずRTは延長していた.4.術後では,各疾患とも流速波形はほぼ正常に改善した.5.以上のように超音波ドプラー血流計およびrealtime spectrum analyzerによる末梢動脈の流速波形の分析は,大動脈弁膜症の評価の非観血的な補助手段として有用と考えられた.