1986 年 18 巻 12 号 p. 1425-1431
動脈グラフトを使用して冠血行再建術を行った.症例は68歳の不安定狭心症の男性であり,両腸骨動脈の閉塞性動脈硬化による間歇性跛行を合併していた.術前の冠動脈造影検査時に上行大動脈の広範な石灰化が認められ,CT検査では石灰化のない部分は上行大動脈の心基部側に限られていることが判明した.人工心肺の動脈送磁カニュレーションはこの部から行う以外になかった.そこで通常行われているvein graftによるA-Cバイパスは行えず,近位側吻合の不要な内胸動脈グラフトによる冠動脈バイパス術を行った.術後患者はすみやかに回復し狭心痛は消失し退院した.
虚血性心疾患では大動脈にも動脈硬化を伴う可能性が他疾患よりも高く,上行大動脈の石灰化の有無を常に念頭に置く必要がある.この石灰化の認知には冠動脈造影時の透視による観察が有効であり,CT検査は硬化性病変の程度と局在の判定に優れていた.このような上行大動脈硬化症例に対する冠血行再建術式の1つとして,内胸動脈グラフトによる冠動脈バイパス術は有用な手段と考えられた.