1986 年 18 巻 12 号 p. 1448-1453
胸部打撲で生じた左冠動脈瘤に起因すると思われる急性前壁中隔梗塞の1例を経験した.症例は34歳,男性,昭和59年7月,交通事故による多発外傷のため当院救急外来を受診し,外科にて腸間膜裂傷の手術を受けた.この際の心電図で前壁中隔梗塞が認められ,心エコーによる同部のasynergyと心筋逸脱酵素の上昇が認められた.事故後1カ月目の左冠動脈造影で,segment6に動脈瘤様変化が認められ,その直前直後は50%程度の狭窄を伴っていた.また,segment 7にはスリット状陰影が認められた.事故後7カ月目の造影ではsegment 6の動脈瘤様所見は消失し,25%未満の狭窄と壁の不整を認めるのみとなった.なお,1カ月目,7カ月目の左室造影ではsegment 2にakinesis, segment 3にhypokinesisを認めている.以上より本例は,外傷性の冠動脈瘤とこれに起因した冠動脈閉塞による前壁中隔梗塞の可能性が高いと考えられた.非穿通性胸部外傷に起因する冠動脈瘤および急性心筋梗塞は極めてまれで数例の外国文献をみるのみであり,ここに報告した.