抄録
症例は50歳,女.家族歴にMarfan症候群なし.昭和50年頃,心拡大指摘されるも放置.特に自覚症状はなかったが,再び心拡大摺摘され,昭和60年6月,精査入院.擁骨動脈拍動に左右差あり,血圧は右上肢168/90mmHg,左上肢142/96mmHgであった.胸部では第4肋間胸骨左縁に灌水様拡張期雑音を聴取した.なおMarfan症候群を疑わしめる所見は認めなかった.一般検査では軽度の肝機能障害を認めたが,梅毒血清反応陰性,高脂血症・糖尿病はなく,炎症所見・免疫学的異常も認めなかった.胸部X線で心胸郭比69%,右第1弓・左第4弓の突/出,右第1弓・左第1弓の石灰化を,心音図では大動脈弁閉鎖不全による高調な拡張期雑音を認めた.心エコー・胸部CTおよび大動脈造影にて上行大動脈の著明な拡大と壁の石灰化を認め,冠動脈造影では左右冠動脈に狭窄を伴わない著しいびまん性の拡張を認めた.原因の確定はできなかったが,大動脈炎症候群が示唆された.以上,冠動脈拡張症にannulo-aortic ectasiaを伴った興味ある症例であったので若干の文献的考察を加え報告した.