1987 年 19 巻 5 号 p. 602-609
症例は40歳女性.昭和59年4月より咳漱出現し,某医にて心雑音,血尿を指摘され,6月22日当科に入院した.入院時,拡張期逆流性雑音を聴取し,炎症所見を認めた.断層心エコー図では,左室拡大と軽度の心膜液貯留があり,大動脈後壁にecho free cavityを認め,弁輪部膿瘍が疑われた.さらに左室流出路には拡張期にmitral aortic junctionより嚢状に突出する異常エコーを認め,その異常エコーは収縮期に大動脈の方へ入り込み消失した.パルスドプラ法では,乳頭筋レベルを越える大動脈弁逆流を認め,大動脈弁の感染性心内膜炎とこれに伴う弁輪部膿瘍と診断した.抗生剤による治療を開始したが,心不全の進行と膿瘍腔の拡大を認め,入院13日後に緊急手術を施行し救命し得た.手術所見では,大動脈後壁に2個の膿瘍があり,大動脈弁左冠尖に破裂孔を伴う大動脈弁弁膜瘤を認めた.動脈血および切除組織の細菌培養は陰性であったが,グラム陰性菌が組織標本で確認された.弁輪部膿瘍を合併した感染性心内膜炎を術前に診断し得た例はまれで,著者らが検索する限り11例の報告をみるのみである.また大動脈弁弁膜瘤に関する心エコー図所見の記載はみられない.本症の診断には断層心エコー図が有用であった.