抄録
Carbamazepineによって洞機能の抑制がまれに認められるが,Rubenstein III型の洞不全症候群の心電図所見を認めた報告はなく,薬剤血中濃度との相関についての検討も十分でない.本剤によると考えられる洞機能抑制を以下に報告する.症例は76歳女性で乳癌の骨転移,甲状腺機能低下症,三叉神経痛で近医に入院中Carbamazepine(TegretolR)を1日0,6g投与され,動悸,眼前暗黒感を訴えた.心電図にて上室性頻拍と洞停止を認め当科に転院した.入院2日目より同剤の内服を中止したところ,翌日より頻脈一徐脈発作は消失し,症状も改善した.第5病日に電気生理学的検査を行い洞結節回復時間は1,740msec,心房早期刺激にて頻拍の誘発を認めなかった.そこでラ再度Carbamazepineを0.6g/day分3で投与開始し,血中濃度と心電図の推移をみながら発作誘発を試みた.内服24時間後より頻脈一徐脈発作を認め,自覚症状も強くなったため総量1.Ogで中止した.Carbamazepine血中濃度はいずれも治療域内で,そのピークは頻脈一徐脈発作に先行した.
本例における上室性頻拍とその終了時の洞停止は,本剤中止3カ月後も同様に認めていることからも潜在性の洞機能不全が存在し,本剤により顕在化されたと考えられた.