1990 年 22 巻 11 号 p. 1303-1308
症例は脳梗塞の既往がある66歳の女性.僧帽弁狭窄症と心房細動にて近医に通院中に心筋梗塞を発症した.急性期の冠動脈造影にて右冠動脈の末梢の2ヵ所に塞栓による完全閉塞像と,左冠動脈より出て左房付近に達する異常血管を認めた.同時に施行した肺動脈造影にて拡大した左房内に巨大血栓による陰影欠損像を認めた.約2週間後の心臓カテーテル検査では,急性期に存在した右冠動脈の2ヵ所の完全閉塞部位は正常冠動脈像を呈していた.
僧帽弁疾患に合併した心筋梗塞の原因として,左房内血栓による冠動脈塞栓が推淀されている.冠動脈塞栓と診断するには,冠動脈の主要枝に栓塊による閉塞があること,冠動脈造影上血栓溶解後に有意狭窄が認められないことを確認する必要があり,さらに塞栓の発生源となりうる血栓を検出すれば診断はより確実になる.我々の経験した症例は初めてこの3条件を確認しえた貴重な症例であると考えられた.