抄録
待期的右冠動脈seg.1~3の冠動脈形成術術中,下壁誘導(II,III,aVF)でST上昇を呈した50例を対象に,急性下壁梗塞における前胸部誘導ST低下の成因について検討した.前下行枝の病変の有無や,右冠動脈灌流域の広さと前胸部誘導(V1~3)のST低下とは有意の関係は認められず,一方下壁ST上昇の程度と前胸部ST低下の程度との間には有意の相関関係がみられた(r=-0.48,p<0.001).前下行枝に対して冠動脈形成術を施行した際の前胸部誘導ST上昇と,下壁ST低下との間にも有意な相関を認めた(n=40,r=0.43,p<0.01).
次に,右冠動脈閉塞部位によるST偏位の相違について検討した.seg.1閉塞時(24例)の下壁ST上昇はseg.3(8例),seg.4(6例)閉塞時よりも下壁ST上昇は有意に大であった(p<0.02).一方,前胸部ST低下は右冠動脈近位部閉塞のほうが遠位部閉塞よりも有意により軽微であった(p<0.01).以上の結果より,下壁梗塞発症直後にみられる前胸部誘導ST低下は主として鏡面像によるものであり,ST低下を軽減させる因子として右室の高度虚血の存在が考えられた.