抄録
腎不全を契機に心不全を発症し,ベラパミルにより血行動態が悪化した閉塞性肥大型心筋症(HOCM)例に対し,心房心室同期ペーシングを行い,圧較差および心係数の急性変化を検討した.心エコーでは僧帽弁の収縮期前方移動(SAM)は認められず,左室-動脈間圧較差は主に,左室中部での肥大中隔と,肥大乳頭筋による左室流出路の閉塞によると考えられた. VVIでは圧較差が148から78mmHgに減少したが,同時に心係数は2.47から1.98l/min/m2に低下した.しかしDDDでは,心係数は2.43l/min/m2で,洞調律時とほぼ不変のまま圧較差のみが100mmHgに低下した.DDD時の心係数は,AV時間が100msecの時が最大で,既報のごとくペーシング時には至適AV時間の存在が推測された.しかしながら,ペーシングを用いても100mmHgの圧較差は残存した.左室中部での流出路閉塞例ではペーシング治療の効果は期待しがたいが,その慢性効果に関しては不明であった.