1993 年 25 巻 12 号 p. 1447-1453
近年様々な病態における心筋収縮蛋白の構造変化が示されているがその機能的意義は必ずしも明らかでない場合が多い.このうち心筋ミオシンの構造変化と収縮機能の直接の対応を調べるためin vitro運動再構成系を用いて実験を行った.この実験系は分離精製したミオシン分子のATP加水分解によるエネルギーを利用して行う能動的な滑り運動を光学顕微鏡により観察するものである.無負荷の条件下ではミオシン分子のin vitroにおける滑り運動の速度はATPase活性の高いα 重鎖の割合と正の相関を示した.さらに遠心顕微鏡と呼ばれる装置により加えた定常負荷の下での滑り運動,そしてそれから得た張カ-速度関係は異なるミオシンアイソフォーム分子間での動力学的特性の差を示唆した.これらの実験系の特徴は極めて少数のミオシン分子のみが運動に関わっていることであり,まるごとの筋肉で観察される力学的特性が分子レベルでの性質に基づくものであることを示している.