1993 年 25 巻 3 号 p. 342-346
心電図逆方向問題において,その解の精度の限界が指摘される一方で,今日のコンピュータのめざましい性能の向上に伴い,心電図順方向計算に関して,より正確で現実に近いシミュレーションが可能になってきた.これまで,「仮定」とされてきたいくつかの現象は,より「具体的な形」でシミュレータ内に組み込まれ,「現実に近い」シミュレーションが可能になってきたといえる.本論文では,体表面心電図順方向計算に関して,これまでの研究の流れを示すとともに,筆者らが提案している個体適合方式の体表面電位シミュレーション手法について述べる.ここで個体適合方式とは,被検者ごとの生体情報を最大限生かしてシミュレーションを行う方式で,トルソモデル作成には,被検者のX線CTを用い,CT値をもとに,胴体形状,体内臓器,組織の位置および大きさなどの情報を抽出し,被検者ごとに適合させた条件下での詳細な体表面電位シミュレーションを可能にしている.また,このシミュレータを用いて体内導電率の不均一性が体表面電位分布に与える影響について検討したところ,特に肺の境界付近に心起電力を置いたとき,体表面電位分布に大きな影響を及ぼすことが示された.
このように心電図順方向シミュレータは,計算機能力の向上に伴い,より生理的に現実に近く,かつ高速なシミュレーションを可能にしてきており,診断支援システムに向けて有効な手段となり得る.