心臓
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25 巻, 3 号
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  • 神原 啓文, 川村 幸子, 下田 里美, 小野 晋司, 野原 隆司
    1993 年 25 巻 3 号 p. 253-260
    発行日: 1993/03/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    1990年1年間の京都市消防局救急出動記録より,発症認知時間から24時間以内に死亡した急病患者(突然死)622例を抽出し,解析した.年齢は80歳代が最も多く,以下70歳代,60歳代,50歳代の順で,平均年齢は69.8±28.8歳であった.男性が374例,女性242例で,男女比は1.5,発症は冬に多く,夏は最も少なかった. 発症時刻には, 6~9 時および18~21時の2峰性ピークがみられ,深夜には有意にすくなかった.発症時刻から死亡までの時間は,1時間以内が388例(62.4%)と大半を占めた.発生場所は自宅(83.8%)が最多であった.発生状況としては,就寝中が最も多く116例(18.6%),次いで,安静時69例(11.6%),入浴中64例(10.3%),療養中で寝たきり55例(8.8%)の順であった. 運動中は2 例のみであった.発生時の主な所見としては,意識不明が385例,ついで,呼吸停止,脈拍停止,胸痛,呼吸困難,吐血などを含む容態の急変であった.274例(44.1%)には何らかの既往歴があり,心疾患の既往が88例(32.1%),ついで,脳血管系31例(11.3%),高血圧28例(10.2%),糖尿病18例(6.6%)などであった.死因は心疾患が最も多く363例(58.4%)を占めていた.心疾患の内訳としては心不全が圧倒的に多く,276例あり,ついで心筋梗塞71例,その他となっていた.脳血管系疾患は,118例(19.0%)あり,その内訳は脳内出血70例,くも膜下出血19例,脳梗塞16例の順であった.他に,呼吸器疾患(肺炎,気管支喘息,呼吸不全など),大動脈・静脈系疾患などがみられた.突然死例は高齢者に多く,心疾患が最も重要な原因と考えられた.
  • 神宮 純江, 竹下 彰, 相浦 昭彦, 大木 實, 中村 元臣
    1993 年 25 巻 3 号 p. 261-269
    発行日: 1993/03/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    福岡市早良保健所管内の突然死について,死亡小票とアンケート法によってその実態を調査した.発症24時間以内の突然死発症率は人口10万人当たり40.7であった.(1)1986年より1989年の3年間の死亡小票による調査では,30歳より60歳代の突然死は男性で女性よりも高率であった.死亡小票にみられる死因の中では心不全が52%,急性心筋梗塞が21%,脳血管死が13%であった.(2)1987年7月から1988年6月までの1年間の突然死56例について,特に受診医療機関および遺族ヘアンケート調査をすることにより,死亡時の状況から死因を推定した.その結果心臓死が55%を占め,心臓死の74%が不整脈死と推測され,残り26%が急性心筋梗塞と推定された.また脳血管死は急死の18%,居合せた家族がなかった等の理由で原因不明であったものが21%であった.突然死した症例の50%に生前高血圧が,45%に心臓病の病歴が認められ,前者の70%,後者の83%は定期治療中であった.突然死の前駆症状として死亡前1か月以内に胸痛を経験した例は,心臓死の約半数にのぼり,急性心筋梗塞死では70%に達した.心臓死の好発時間帯は午前0時より午前中であった.また深酒後や入浴・用便直後にも突然死が多かった.突然死例の8割は掛りつけの医療機関を持ち,死亡1年以内に受診していた.以上の結果から医療機関を通じて疾病に対する知識を与えるなど患者教育を十分行うことにより急死を減少させる可能性が示唆された.
  • 安井 昭二
    1993 年 25 巻 3 号 p. 270-271
    発行日: 1993/03/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
  • 西上 和宏, 早崎 和也, 庄野 弘幸, 本田 俊弘, 牧 明, 松田 宏史, 本田 喬
    1993 年 25 巻 3 号 p. 272-278
    発行日: 1993/03/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    目的:心筋梗塞超急性期にみられる増高T波の臨床的意義を明らかにすること.
    対象と方法:発症2時間以内に心電図が記録され,急性期冠動脈造影(CAG)が施行された急性前壁梗塞患者53例を対象とし,超急性期の心電図変化と梗塞前狭心症歴および冠動脈造影所見との関連について検討した.また,急性冠閉塞のモデルとして,狭心症患者23例を対象に左冠動脈前下行枝に対する経皮的冠動脈形成術(PTCA)中の心電図変化と狭心症歴および術中対側造影による側副路の有無との関連について検討を行った.
    結果:心筋梗塞超急性期の心電図変化と記録された時間の関係では,増高T波を呈する例とST上昇のみの例との間に有意差は認められなかった.増高T波を呈する例は増悪型不安定狭心症から心筋梗塞になった例が63%,CAG上不完全閉塞または側副路のある例が94%とST上昇のみの例の場合と比較し有意に多かった(p<0.05). PTCAによる冠閉塞モデルにおいては,増高T波を呈した例はPTCA前に30回以上の狭心症発作があった例が86%,対側造影上側副路のある例が75%とST上昇のみの例の場合と比較し有意に多かった(P<0.05).
    結論:増高T波は心筋梗塞超急性期に常に出現するわけではなく,その形成には中等度の虚血や反復する虚血発作の関与が考えられた.
  • 新谷 博一
    1993 年 25 巻 3 号 p. 279-280
    発行日: 1993/03/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
  • 特に冠動脈硬化重症度との関連について
    富田 喜文, 高野 照夫, 清野 精彦, 高山 守正, 宗像 一雄, 太田 真夫, 田中 啓治, 大竹 稔, 早川 弘一
    1993 年 25 巻 3 号 p. 281-288
    発行日: 1993/03/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    急性心筋梗塞患者において,リポ蛋白(a)(Lp(a))の冠動脈硬化症に及ぼす影響を明らかにするため,発症直後と4 週後に血中Lp(a)を測定し, これと冠動脈造影所見による冠動脈硬化重症度,および各種血中脂質関連物質などとの関係について検討した.対象は,発症から12時間以内に入院した急性心筋梗塞患者55例(男43例,女12例).4週後の血中Lp(a)は平均22.1±15.8mg/dlで,発症直後のLp(a)値と差がなかった.慢性期の冠動脈造影所見における有意狭窄病変により0枝~3枝病変の4群に分けて検討した.その結果,血中Lp(a)は1枝および2枝病変群において有意狭窄を持たない0枝病変群に較べ有意に高かった.また,冠動脈狭窄度より算出した重症度スコア(Gensini score)と4週後のLp(a)値の間には,Lp(a)が25mg/dl以上の高値を示す症例に限って,有意の正の相関を認めた.さらに,正脂血症の24例に,同様の検討を行ったところ,2枝と3枝病変をあわせた多枝病変群のLp(a)は,0枝病変群に比較して有意に高かった.
    以上の結果より,急性心筋梗塞においてLp(a)が高値のものは冠動脈硬化がより高度であり,特に正脂血症者では,Lp(a)が心筋梗塞の危険因子として重要な役割を果たす可能性が示された.
  • 小野 直見, 本康 宗信, 清水 雄三, 青木 俊和, 西川 英郎, 角田 裕, 福井 敦, 小西 得司, 中野 赳
    1993 年 25 巻 3 号 p. 289-294
    発行日: 1993/03/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    経皮経静脈的僧帽弁交連裂開術(PTMC)後の僧帽弁狭窄症例を経時的に観察し,1)弁口面積の減少,臨床症状の増悪の有無,2)弁口面積減少に関与する因子の2点に関して検討した.対象は僧帽弁狭窄症13例(男5,女8例)で,年齢は60±8歳,観察期間は11.8±3.0カ月であった. 弁口面積は心エコーにより直接計測(2DE)とCW波形よる方法(CW)で測定した.2DE法では弁口面積はPTMC1日後に比べ,4~8カ月後には減少した(2.09±0.36より1.87±0.27cm2)が4~8カ月と11~16カ月との間に変化はなかった.CW法ではPTMC1日後,4~8カ月後,11~16カ月後で有意差はなかったが減少傾向であった.NYHA機能分類,左房径,心胸郭比いずれも経過中変化はなかった.PTMC1日後に比べ,11~16カ月後の弁口面積の減少率が10%を越える群,越えなかった群の2群間で年齢,性別,心房細動の有無,観察期間,弁形態,弁口面積,左房径,平均僧帽弁圧較差,PTMC前後の弁口面積・左房圧・圧較差の変化,使用したバルーン径, 拡張回数のいずれも有意差はなかった.PTMC後1年間の観察期間では僧帽弁口は減少傾向があると考えられた.弁口の再狭少化を術前に予測することは困難で,自覚症状の増悪は認められなくとも,定期的な弁口面積の経過観察が重要である.
  • 河住 茂, 酒井 俊太, 桑名 壮太郎, 堀川 龍是, 草間 芳樹, 横山 広行, 早川 弘一
    1993 年 25 巻 3 号 p. 295-300
    発行日: 1993/03/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    症例は42歳,男性.生下時より心雑音を指摘され,小児期は運動時呼吸困難,時にチアノーゼあり.発育は正常で加齢と共に症状軽減のため精査せず.平成2年9月NYHA III度の心不全症状が出現し11月入院.チアノーゼ,ばち状指,多血症,低酸素血症を認む.3LでLevine5/6度の汎収縮期雑音を聴取.胸部X線はCTR74.5%,右1弓突出,左2弓は丸みを欠き,右肺門陰影増強.心電図はLADと高度な心房負荷を伴うRVH.心エコー図でVSD,高度RVH,大動脈右室起始で僧帽弁と両半月弁との連続性がなく,両大血管右室起始症(DORV)と考えた.心臓カテーテル検査でカテーテルは右室から両大血管へ,またVSDを経て左室へ挿入され,右室圧130/11mmHgで左室圧と等しく,大動脈圧128/80mmHg,肺動脈圧48/17mmHgでvalvular PSあり.酸素飽和度は肺動脈74%,大動脈89%.大動脈DSAで左肺動脈は上行大動脈から起始.また右大動脈弓,冠状動脈異常の合併あり.MRIでDORV(SDD),VSD related to PAと診断した.なお肺血流スキャンニングは左肺放射活性比の著減あり.本例は内科治療で軽快退院したが,高齢で診断され,また極めてまれな合併奇形を有するDORVの1例であり,ここに報告する.
  • 門脇 謙, 熱海 裕之, 佐藤 匡也, 阿部 芳久, 熊谷 正之
    1993 年 25 巻 3 号 p. 301-304
    発行日: 1993/03/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    僧帽弁閉鎖不全による心不全症状を契機として発症し,孤立性円錐枝と右冠動脈分枝による左冠動脈系への副血行路形成を形態的特徴とした先天性左冠動脈口閉鎖症の1成人例を報告する.症例は58歳,女性.負荷心電図で胸痛とST下降があり,断層心エコーで,腱索断裂,僧帽弁前尖の逸脱と僧帽弁逆流を,左室造影で3度の僧帽弁逆流を認めた.冠動脈造影で左冠動脈入口部を欠き,左冠動脈系への副血行路として右冠動脈直上に派生した孤立性円錐枝と左冠動脈前下行枝円錐枝とのVieussens ring,右冠動脈後下行枝および中隔枝と前下行枝末梢間,鋭縁枝と回施枝間の吻合が認められた.さらに,僧帽弁置換中の観察では左冠動脈口の欠損が確認され,本例は先天性左冠動脈口閉鎖症と診断された.本例に合併した僧帽弁閉鎖不全の発症は,加齢や冠動脈危険因子の関与などによる副血行路循環機能不全が生じ,やがて心筋虚血を基盤として腱索断裂から僧帽弁閉鎖不全に至った機序が推測された.
  • 門間 和夫
    1993 年 25 巻 3 号 p. 305-307
    発行日: 1993/03/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
  • 加藤 豊雄, 松岡 宏, 濱田 希臣, 大谷 敬之, 阿部 充伯, 関谷 達人, 住元 巧, 日和田 邦男, 宍戸 道弘, 富野 哲夫
    1993 年 25 巻 3 号 p. 308-314
    発行日: 1993/03/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    症例は69歳男性.胸部絞扼感を主訴に入院した.心エコー図とMRIによる非観血的検査で右バルサルバ洞動脈瘤を疑い,平成3年5月30日心臓カテーテル検査を施行した.大動脈造影で,非破裂の右バルサルバ洞動脈瘤および大動脈閉鎖不全症(SellersIII度)を確認した.右室造影から右バルサルバ洞動脈瘤による右室流出路の狭窄を認めた.肺動脈と右室の収縮期圧較差は28mmHgであった.冠動脈造影を行い左冠動脈主幹部(75%),前下行枝(Seg7;99%,Seg8;75%)と回旋枝(Seg13;75%)に有意狭窄を認めたが,右冠動脈には入口部を含め有意狭窄所見を認めなかった.右室流出路の狭窄を呈する非破裂の右バルサルバ洞動脈瘤は生前に診断されることが少なく,現在まで6例の報告しかない.また,心室中隔欠損症の合併なしに,右バルサルバ洞動脈瘤が大動脈弁閉鎖不全を合併することはまれであるが本症例の術中所見では心室中隔に異常所見は認められず,バルサルバ洞動脈瘤の成因を考える上で興味ある症例と思われた.
  • 高沢 有史, 椎川 彰, 長嶋 光樹, 廣田 潤, 八木 葉子, 遠藤 真弘, 小柳 仁, 大西 哲, 笠貫 宏
    1993 年 25 巻 3 号 p. 315-319
    発行日: 1993/03/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    59歳男性で心房中隔二次孔欠損症(以下ASD)に希有型房室結節リエントリー性頻拍(以下AVNRT)と発作性心房粗動(以下p-AF)を合併した症例に対し同時に手術を施行した.
    AVNRTに対する手術はJohnson,Rossらの方法に準じ房室結節周囲を剥離,冠静脈洞周囲に凍結凝固を追加した.またp-AFに対しては心房電位のfragmentationを示す部位に凍結凝固を行った.術後AVNRTおよびp-AFは消失し,電気生理学的検査にても房室結節のslow pathwayの離断が確認された.
    本例はASDとそれに合併するAVNRTとp-AFに対する一期的根治例であり,先天性心疾患と上室性頻脈性不整脈に対する一期的手術の可能性と有用性を示す貴重な症例と考えられた.
  • 茅野 千春, 佐々木 康之, 高山 伸, 小池 清一, 山崎 徹, 赤松 泰次, 古田 精市, 深谷 幸雄
    1993 年 25 巻 3 号 p. 320-323
    発行日: 1993/03/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    症例は51例,男性.昭和56年に肥大型心筋症の診断を受け経過観察されていた.昭和63年8月より悪寒を伴う発熱が続き解熱しないため某病院に入院.血液培養でStreptococcus faecalisが検出され敗血症と診断,抗生剤投与を受けたが軽快しないため10月17日当科転院となった.当科入院時には高熱,好中球増多,CRP(〓)などの炎症所見のみで心不全症状はなかった.心エコー上,symmetricalhypertrophy,僧帽弁のsystolic anteriormotion,左室内圧較差の所見はあったが,弁の逆流所見,vegetationは認めなかった.第9病日より心不全症状が現れ,大動脈弁閉鎖不全,僧帽弁閉鎖不全が出現,vegetationを大動脈弁,僧帽弁に認めた.抗生剤治療により一時炎症反応は鎮静化したが再び増悪,vegetationの大きさ,可動性が増したため塞栓症の危険が高いと判断し第26病日,大動脈弁,僧帽弁の二弁置換術を施行した.術中所見では,大動脈弁の右冠動脈尖,僧帽弁前尖に穿孔がありvegetationの付着があった.
    術後の心エコーでmid-ventricular obstructionによる左室内圧較差を認めたが頸動脈波の異常所見は消失した.僧帽弁,腱索等による左室流出路の狭窄が存在したことが推定された.感染性心内膜炎の基礎心疾患の1つとして閉塞性肥大型心筋症があげられるが報告は少なく,大動脈弁,僧帽弁の二弁同時置換術を施行した症例はまれと思われた.
  • 黄田 純子, 別府 慎太郎, 浜田 星紀, 宮武 邦夫
    1993 年 25 巻 3 号 p. 324-329
    発行日: 1993/03/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    症例は68歳男性,22歳満州に居留中,肺炎に罹患後,労作時に軽度の息切れがあり,心臓弁膜症と言われたがとくに治療は受けなかった.昭和62年肺炎を契機に発症した心不全にて,当院を受診した時に心臓陰影に一致した石灰化像を指摘された.その後も心不全症状が持続するため精査を行った.腎機能正常,血清カルシウム,リンは正常範囲内,好酸球増多なし.胸部X線にて心拡大と左室に対応する部位に石灰化が認められた.心電図で著明な左室肥大とV4~6のT波逆転あり,心エコー図,胸部CT,MRIで石灰化の場所は左室心尖部および左室流入路で心内膜に接していた.心筋の菲薄化や心外膜の石灰化はなかった.ドプラ心エコー図,心機図から拡張障害が示唆され,心内膜心筋線維症が疑われた.このような症例はまれであり,文献的考察を加え報告した.
  • 現況と将来展望
    岡本 良夫
    1993 年 25 巻 3 号 p. 332-341
    発行日: 1993/03/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    細胞膜レベルの現象と全心臓レベルの現象との間には大きな隔たりがあり,両者は別々に研究されているのが現状である.しかし,飛躍的に向上を続ける計算機の処理能力を利用すれば,これらを結び付けることも夢ではない.こうした目標に向けて我々が続けてきた研究の成果を報告すると共に,計算機シミュレーションの将来を展望する.
    細胞膜の能動的な特性を表現するHodgkin-Huxleyタイプの興奮膜モデルと,膜以外の受動的な特性を表わすバイドメインモデルを組み合わせれば,興奮伝播を記述する非線形の偏微分方程式が導かれる.この方程式を数値的に解くプログラムを開発し,既に三次元の興奮伝播まで扱えるようになっている.本論文では一次元モデルで計算された興奮伝播速度の連結期依存性と,二次元モデルによる傷害領域近傍での興奮伝播のシミュレーション結果を示す.
    全心臓レベルでも種々のモデルが提案されてきたが,どれも心臓を小さなユニットの集合として表わす点では共通している.我々も約5万個のユニットで構成されるモデルを開発し,正常心臓を始め各種心疾患のシミュレーションに成功している.しかし,こうしたユニット分割モデルにはいくつかの問題点があり,それらは新たに開発した四面体分割モデルによって解決される.このモデルでは心臓は四面体要素に分割され,四面体の各頂点には心筋の特性を表わすいくつかのパラメータが指定される.線形補間で四面体内部の値を決めれば心臓内のあらゆる点で心筋特性が与えられ,興奮伝播の非等方性・不均質性を始め活動電位波形の空間依存性などもシミュレートできる.
  • 個体適合方式によるシミュレータを用いて
    小栗 宏次, 岩田 彰, 鈴村 宣夫, 岡島 光治
    1993 年 25 巻 3 号 p. 342-346
    発行日: 1993/03/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    心電図逆方向問題において,その解の精度の限界が指摘される一方で,今日のコンピュータのめざましい性能の向上に伴い,心電図順方向計算に関して,より正確で現実に近いシミュレーションが可能になってきた.これまで,「仮定」とされてきたいくつかの現象は,より「具体的な形」でシミュレータ内に組み込まれ,「現実に近い」シミュレーションが可能になってきたといえる.本論文では,体表面心電図順方向計算に関して,これまでの研究の流れを示すとともに,筆者らが提案している個体適合方式の体表面電位シミュレーション手法について述べる.ここで個体適合方式とは,被検者ごとの生体情報を最大限生かしてシミュレーションを行う方式で,トルソモデル作成には,被検者のX線CTを用い,CT値をもとに,胴体形状,体内臓器,組織の位置および大きさなどの情報を抽出し,被検者ごとに適合させた条件下での詳細な体表面電位シミュレーションを可能にしている.また,このシミュレータを用いて体内導電率の不均一性が体表面電位分布に与える影響について検討したところ,特に肺の境界付近に心起電力を置いたとき,体表面電位分布に大きな影響を及ぼすことが示された.
    このように心電図順方向シミュレータは,計算機能力の向上に伴い,より生理的に現実に近く,かつ高速なシミュレーションを可能にしてきており,診断支援システムに向けて有効な手段となり得る.
  • 1993 年 25 巻 3 号 p. 347-359
    発行日: 1993/03/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
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