1995 年 27 巻 10 号 p. 911-916
60歳男性.1993年5月末より左下腹部痛にて6月2日当院泌尿器科に入院し,左腎のangiomyolipomaと診断された.しかし腹部膨満感が持続するため17日注腸検査施行され,その直後より39℃ に及ぶ高熱,3日目には乏尿・呼吸困難となり,26日に当科転科となった.胸部X線上の肺うっ血所見,動脈血培養でEnterococcus faecalis(以後E.faecalis)陽性,FDP,D-dimer,TATの亢進所見より,E.faecalisによる敗血症からpre-DIC状態を呈したKillip III度の心不全と診断した.強心剤,利尿剤および抗生剤投与にて心不全は軽快し解熱するも,第17病日より再び発熱し,血液培養で前回同様にE.faecalisを認めた.同時期より胸骨左縁第3肋間に灌水様の拡張期雑音を聴取し,感染性心内膜炎(以後IE)による大動脈弁閉鎖不全症(以後AR)と診断した.第47病日頃よりAR増悪による著明な左心不全をきたしたため,喀痰よりMRSA排菌を認めたが,第62病日緊急大動脈弁置換術を施行した.大動脈弁は三尖とも著明に破壊され,特に左冠尖と無冠尖には穿孔および疣贅が見られ,さらに左冠尖弁下部に膿瘍形成を認めた.術後は経過順調にて第186病日(術後第124日目)に退院した.