心臓
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症例 血管内皮細胞機能
特に内皮依存性血管拡張反応の低下について
川嶋成 乃亮
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1995 年 27 巻 5 号 p. 471-481

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抄録

血管内皮細胞は内皮細胞由来血管弛緩因子(EDRF)を産生遊離して血管のトーヌスの調節を行っている.種々の心疾患においてこの内皮依存性血管拡張反応(EDR)が障害されていることが判明している.私達は心不全において骨格筋の抵抗血管におけるEDRが低下しているかどうかの検討を行った.高頻度右室pacingにて作製した慢性心不全犬を用いた下肢灌流実験において,心不全犬ではコントロール犬に比べ内皮依存性血管拡張物質であるacetylcholine(ACh),ADPによる拡張反応は低下していたがnitroglycerine(NTG)に対する反応には差を認めなかった.またpacingをoffにすると下肢抵抗血管のEDRも可逆性に正常化したが,その正常化は血行動態に比べて遅延していた.このようなin vivoにおける心不全でのEDRの低下は陳旧性心筋梗塞による心不全ラットの摘出cremastermuscle抵抗血管を用いたvedeornicroscopicな血管径の測定実験でも確認された.EDRFはNOであることが判明しているが,NOはNO合成酵素(ecNOS)により産生される.心不全にて血中レベルが増加しているサイトカインであるTNFα のecNOS発現に及ぼす影響を検討すると,ウシ培養大動脈内皮細胞において,TNFα 刺激にてecNOSのmRNAならびに蛋白発現は低下した.またCa2+イオノファA23187刺激によりNO産生量もTNFα前処置にて減弱した.すなわち心不全で抵抗血管のEDRが低下の機序の1つとして,心不全時に増加するTNFeα によるecNOSのdown regulationの関与を示唆する所見と考えられた.また心不全においてL-arginine-NOカスケードは,EDR低下に代表される血管系への作用のみでなく,白血球や心筋細胞由来のNOによりその病態に関与している可能性があり,これからの研究の課題となっている.

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