1997 年 29 巻 12 号 p. 945-950
症例は56歳,男性.主訴は動悸,息切れ.昭和53年に僧帽弁閉鎖不全症(MR)3度にてHancock弁を用いた僧帽弁置換術(MVR)が施行された.平成3年に労作時の息切れ,咳嗽が出現しうっ血性心不全,人工弁逆流を認めたため,同年10月Carbomedics弁(29mm)を用いた2回目のMVRが施行された.その後症状なく経過していたが,平成7年2月より動悸,息切れが出現し4月5日当科入院した.経胸壁心エコーにて左房径は44mmで左房内の異常は指摘できなかった.
経食道心エコーでは左房の前壁側に2つの解離腔を認めた.1つは弁輪部より流入血流を認め,さらに左房への流出血流を認めた.僧帽弁置換術後の左房壁解離の報告はきわめてまれで,我々の調べ得た範囲ではこれまでに3例しかない.この症例では慢性に経過し,心不全は呈さなかったが心房粗動のコントロールが不良であり治療方針の決定に苦慮したが,再々弁置換を施行し,術前治療に苦慮した心房粗動も見られなくなり良好な経過を得ている.
我々は2度のMVR後に徐々に進行したと考えられる左厨壁解離を経験した.このような報告例はなく,治療方針には苦慮したが貴重な症例と思われ報告する.