1997 年 29 巻 7 号 p. 597-602
肥大型心筋症(HCM)の安静時心電図左側胸部誘導でST上昇を呈した例の臨床像を検討した.HCM95例をV5きあるいはV6でSTが0.05mV以上上昇したST上昇群24例(S群)とST上昇がないcontrol群(C群)71例の2群に分類し,心電図所見と臨床事項について対比した.さらに,初診時から最終受診日までの心電図の経年変化について検討した.S群は,C群に比してQRS幅が著明に延長し(117.1 vs 94.3 msec),RV5波高は低く(1.1 vs 2.7mV),心室頻拍例が多く(16 vs 12例),T1心筋シンチの欠損も広範に見られ(3.0 vs 1.6分画),運動時の左心機能低下例が多かった(EF 61.6 vs 68.9%)。経年変化では,経過中にSTがより上昇した群ではQRS時間が著明に延長した(30.0 msec).以上の結果から,HCMにおけるV5やV6のST上昇は,心室内伝導障害・広範な心筋障害・心室頻拍・運動時の左心機能低下など重篤な病態と関連していることが示唆された.