抄録
抗不整脈薬は催不整脈作用を有しており,中でもIaおよびIII群によるTorsades de Pointes(TdP)は,QT延長がその原因のひとつと考えられている.一方,心室ペーシング中のQT間隔の正常域はいまだ確立した基準がないため,QT延長の判断は困難である.症例は83歳の男性で,1992年高血圧性腎機能障害で通院中,完全房室ブロックのためペースメーカーの植え込み術を施行した.その後一過性心房細動のため,1995年2月,pirmenolの内服を開始し再発を認めなかった.感冒を契機に慢性腎不全の急性増悪を起こし1995年7月,透析目的にて入院した.体位変換時,意識消失発作を起こし,ホルター心電図にて体位変換に一致してペーシング不全が起こり,QT延長およびTdPを確認した.TdPの発生機序が徐脈のためか,pirmenolの影響かを鑑別するため,他の10名のペースメーカー患者群およびpirmenol内服前後での本症例について心拍数とQT間隔の関係を検討した.本症例は,ペースメーカー患者群と類似した徐脈依存性のQT延長作用を認めたが,pirmeno1の投与によってその作用が強調された.したがって,本症例はpirmenolによるacquired long-QT syndromeと診断した.リード損傷のために体位変換に一致して起こるペーシング不全のため,QT延長を招来しTdPが誘発され意識消失発作を起こしたacquired long-QT syndromeの1例を経験したので報告する.